第172鱗目:目覚め、龍娘
「ん……んん……」
ここは……確か皆が避難できる場所を作って……
「それで……倒れたんだっけ…………」
記憶が途切れる直前の事を思い出しながら、目を覚ました僕は翼爪を床に立てる事で体を支えながらよろよろと立ち上がる。
それで、ここに僕が運び込まれてるって事は……
「すずやん!」
「鈴香!」
そういう事だよね。
「大丈夫なん?どこか痛い所とか、変な所とかない?」
「無理すんなよ?ただでさえ倒れた後なんだから」
2人とも優しいなぁ。まぁ気だるさとかはまだ残ってるけど、動けないわけじゃないし。
「うん、大丈夫。それより皆は?先生達はなにか?」
「あぁ、それなら───────」
「あっちで下山について話をしてるわよ」
「あ、さーちゃん」
「おはよう鈴、調子はどう?」
「一眠りしたからか随分良くなったよ、ほらっ」
僕は2人から遅れてやってきたさーちゃんにそう言うと大きく翼を広げ、1回2回と大きく羽ばたかせ動けるということをアピールする。
「その様子なら良さそうね。それじゃあ……はいこれ、今のうちに食べときなさいよ」
「あ、ありがとうさーちゃん」
お腹ぺこぺこだったから助かるよー!
「……あいっ変わらず美味そうに水晶食べるなぁ……すずやんは」
「実際、鈴香にとっては一流のパティシエのお菓子よりも美味いらしいからな。くぅ……見てるこっちが腹減ってくるぜ」
「ふぅ、美味しかった〜♪それで、下山は出来そうなの?」
「今は晴れてるから、今のうちに下山するそうよ。いえ、するなら今しかないが正しいのかしら」
まぁ確かに次いつ晴れるか分からないし、それに食料も無しにこれだけの人数……今のうちに下山するしかないよね。
それにこの話は三浦先生達にも入ってるだろうし、多分救助ヘリとかも来てくれるに違いない。
水晶を食べ終えた僕がさーちゃんに教えて貰った事からこれから先の展開を考えていると、遠くの方で急に声が荒らげられたのを聞き取る。
先生の声?誰かと電話してるみたいだけど、何かあったのかな……よし、ちょっと失礼だけど……集中。
「─────ですか!?何故無理なんですか!?」
無理?何か頼んでたのかな?
「積雪量が凄くて近づけない?それならヘリでも!……ヘリも無理?雪崩が起きかねない?じゃあどうすればいいんですか!?こっちには生徒達も居るんですよ!?」
もしかして……救助が無理って事?
「ね、ねぇすずやん?大丈夫かな?先生、えらい気が立っとるみたいやけど……」
そりゃ、気も立つよねぇ。
生徒360人くらいの命を全部引き受けてるのにこんな状況に立たされたりしたら……しかも食料とかも殆どないこの状況で。
「な、なぁすずやん?」
「気にしなくていいよとらちゃん、心配しなくても大丈夫だから」
「ほんまに?」
「ほんまほんま」
僕はそう言ってとらちゃんの頭を一撫ですると、ちょっと動きたいからと言って立ち上がり、先生へ向かって歩き始める。
「それで、あんな事言うって事はまたなにか無理する気なんでしょ?鈴」
「ははははは、やっぱりさーちゃんにはバレてたかー…………うん、そうだよ。もうひと頑張り、やらないとね」
そう言うと僕は翼を広げ、1回2回と大きく羽ばたいたのだった。
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