第171鱗目:吹雪の夜に

「体温は少し低いけど呼吸は安定してるし、顔色も悪くはないし、疲れて寝ちゃってるだけで大丈夫なはずよ。安心してちょうだい」


「「「「よ、良かったぁー」」」」


 未だ外では吹雪が吹き荒れる中、鈴香の作った水晶の中へと避難した虎白達は、力を使い果たして倒れた鈴香の容体を聞き安堵の息を漏らす。


「それじゃあ私は他の生徒も見て回るから、暫くは4人に天霧さんのことは任せるわね。何かあったら直ぐに呼んでくれて構わないから」


「はい、ありがとうございました…………にしても、まさかこんなに大きいものまで作れるなんて……すずやんはほんま凄いなぁ」


「アタシ達もすごく大きいのも作れるっていうのは聞いてたけど……まさかこんなサイズの物まで作れるとは思ってなかったわ」


「ほんと、いつも天霧さんには色々と驚かされるよ」


「だな。でもまぁ、力を使い果たして倒れてでも俺達を救ってくれたんだ。ちゃんと感謝しないとな」


 隆継の言葉を聞き、鈴香を膝枕していた虎白はふっと優しげな笑みを浮かべ、すやすやと寝息を立てる鈴香の髪をそっと撫でて上げるのだった。

 しかし天気はそう簡単に好転する事は無く、辺りが暗くなり始めても吹雪は止まず生徒達には不安を通り越し、怒りが広がり始めていた。


「なんだか……雰囲気が悪いわね」


「せやね……何もないとええんやけど…………」


「まぁ、十中八九何かトラブルが起きるだろうな。少なくとも大部屋だけで個室は無いから吹雪の中の雪山ロッジあるある「こんな所にいられるか!」って展開は無さそうだが」


「そこまでテンプレな流れが発生したら逆に感動するよ」


「にしても吹雪凄いな、全く止む気配がしない所かどんどん強くなってないか?」


「ほんまになぁ……これ明日帰れるんかなぁ」


「大丈夫よ、きっと何とかなるわ。それに多分もう三浦さん達が動いてそうだもの」


「あーたしかに、なんなら雪が止み次第すぐさまヘリが飛んできそうな気がしてきた」


「ま、一晩の辛抱だ。大人しく鈴香の面倒でも見ながら待ってよう───────」


「隣、いいかしら」


「……いいわよ」


 隆継の言葉を遮っていきなり現れたそんな事を言ってきた金髪の少女に、さなかは面倒臭いという感情を全面に出しながらも、一応許可を出す。

 すると金髪の少女は一言「感謝しますわ」と言って鈴香を膝枕してる虎白の前に座り、すぅすぅと寝息を立てる鈴香の髪の毛に優しく触れる。


「貴女のお陰で皆さんが凍えずに済みましたわ、その事には心から感謝致します。だから、早く元気になって皆さんにチヤホヤされなさい。貴女はワタクシのライバルなんだから」


「……ふーん、噂と違って意外とええ奴やんか」


「ワタクシ、負けるのは嫌いですけども人を見下す、ましてや倒れてまでも助けてくれた恩人を貶す趣味はありませんのよ」


「それなら本人が起きてる時に言ってやったらどうなん?きっと耳を赤くして照れながら尻尾揺らして喜ぶと思うで」


「それはお断り致しますわ、ワタクシのキャラじゃありませんもの。それにどうせ「あ、コスプレの人」って言われるに決まってますもの」


「あはははは!たしかにすずやんならそういうに違いないわ!」


「ワタクシとしては本気で不本意ですけれど。それでは、ワタクシはここら辺で、やらなくてはならない事がありますの」


 虎白と話しながら最後に鈴香の頭を軽く撫でた金髪の少女はさなか達にそう言うと、お辞儀をしてスタスタと歩いていってしまった。


「あれが鈴香が言ってた?」


「そ、金髪コスプレお嬢様よ」


「すずやんらしいまんまなネーミングやなぁ……ま、聞いてた話よりも遥かに人としてまともそうで良かったわ」


「あの金髪の子の事知ってたのか虎白?」


「まぁな、すずやんにはかなわんけどそれなりに目立つ子やし。えーっと名前はたしか……あれ?なんやったっけ?まぁええわ」


「いいのかそれで……」


「別にそんなしょっちゅう絡む子でもないから知らなくても困らないし、いいんじゃないかしら?」


「それでいいなら……それじゃあとりあえず、俺達も明日に備えて休むとしよう」


「それがええな、それじゃあ交代で1人起きてすずやんの様子を見る感じでいこか」


「あいよ」「了解」「分かったわ」


 こうして、吹雪の吹き荒れる真っ暗な山の一角にそびえ立つ薄明かりを湛えた水晶の中、とある金髪の少女によりその一晩は平和が保たれたのだった。

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