第169鱗目:休憩時間、龍娘!

「20分後に今と同じように整列しておくこと、それじゃあ解散!」


 先生がそう言い終わると、今までビシッと整列していた生徒達は我先にと言わんばかりにこの小さい公園くらいある山の中腹の休憩スペースで遊び始める。


「皆元気だなぁ……僕なんて寒くて寒くて仕方ないよ」


「皆も寒いから動き回って暖かくなりたいんじゃないか?」


「なるほど、確かに一理あるかもしれなぶっ!」


「あっ、適当に投げたらすずやんの顔にクリーンヒットしてしもうた」


「……やったなとらちゃん!これでも喰らえっ!」


「ぎゃあああ!冷たい冷たい!尻尾で雪巻き上げて来るのはズルいてすずやん!」


「ふはははは!雪まみれにしてくれるわぁ!」


「きゃー!」


「……元気ねぇあの子たち、アタシなんてもう寒くて寒くて仕方がないわ」


「デジャブを感じる」


「デジャブ?いきなり何言ってるのよ隆つぶっ!」


「あっ」


「「あっ」」


「…………あーんーたーたーちー……!」


「「ご、ごめんなさーいっ!」」


「待ちなさーい!」


「……元気だなぁ」


 そして勿論僕達もなんやかんや言いつつ、皆で一緒に遊び始めていたのだった。


「つ……疲れた……」


「お疲れ様、まだ頂上まで距離あるんだからそこそこにしとけよ」


「はーい、幾ら舗装された道とはいえ雪まみれで登りにくいのは確かだからねぇ。体力は残しとかないと」


 一通り遊んで帰って来た僕は隆継にそう言うと、寄りかかっていた柵から外を見る。

 そこにはまだ3分の1程とはいえ、白く雪で被われた森と、真っ白な平原が陽の光を浴びてキラキラと輝きながら広がっていた。


「綺麗だなぁ……」


「これだけで来た甲斐が有ったってもんだよな。三日目の雪山登山」


「だね。所で隆継、首尾の方は?」


「バッチリだ、後は龍清と朱雀峰さん次第でもういつでも決行できるぞ。時間はそこまでないからやるなら早くだな」


「さっすが隆継ー、頼りになるねぇ。それじゃあ……」


「とらちゃんとむーさん、引っ付けちゃおう大作戦、開始だよ!」


「おう!」


 こうして、僕と隆継によるお節介な作成は幕を開けたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


 それじゃあまずは作成第1段階……


「おーい、とらちゃーん」


「はいはーい!なんやすずやん?」


「こっち来て来てー!すっごい景色綺麗だよー!」


「ほんまー?すぐ行くでー!」


 何気ない感じでとらちゃんを人が少なめの方へ呼び出す!


 手を大きく振りながらとらちゃんを呼び出した僕は、笑顔の裏でそんな事を考えつつ今回の作戦の手順を再確認する。

 作戦の内容はこうだ、まず最初にとらちゃんをいい感じの場所に僕が呼び出し、そこに隆継によってむーさんを誘導させる。

 そして最後の仕上げに僕が「イタズラ」をするという、そんな作戦である。


「来たですずやん、それでいい景色はどこなんー?」


「あっちあっち、ほら湖が見える」


「ほんまや、なかなかええなぁ」


「でしょー?」


 さて、もうそろそろむーさん来てもおかしくないんだけど……とか言ってたら見つけた!しかもちゃんとこっち来てる!


「すずやんどうしたん?」


「いや、あそこにうさぎがいるなーって」


「えっ!?どこどこ!?どこにおるん!?」


「ほらあそこ、茂みの辺りでぴょこぴょこ跳ねてる」


「み、見えへん……すずやん視力良すぎや」


「お、こんな所に二人共居たんだ。何してるの?」


「あ、むーさん」


「りゅ、りゅーくん!?いつの間に!」


 よし、作戦第二段階成功!


 なんとか上手くむーさんの存在に気が付かせない事が出来たようで、横でうさぎを見ようと奮闘していたとらちゃんは、突然むーさんに話しかけられびっくりしてしまう。


「いつの間にって、何となくこっちに来たら2人が居ただけだよ。それで、何してたんだい?」


「景色見てたんだよー、ほらあそこの湖とか」


「おぉ、これは確かにいい景色だね。それで虎白は何を?」


「う、うさぎを見ようと思っとってな……」


「うさぎ?何処にいるんだ?」


「あそこら辺におるってすずやんが」


「……見えん」


 一応本当にいるにはいるんだけどなぁ。さて、多分そろそろ隆継から合図あるだろうし、所定の位置に……


「おーい鈴香ー、ちょっと来てくれー」


 きたっ。


「はーい!ごめんねとらちゃん、なんか呼ばれたからちょっと行ってくるよ」


「えっ、あ、うん、行ってらっしゃいやで」


 そう言って隆継に呼び出された僕は、むーさんと二人きりになる事で緊張してる様子のとらちゃんに手をヒラヒラと振り、くるっと後ろへ向き直り去っていく。

 そのまま暫く歩いた僕は隆継と合流し物陰に隠れ、そこからひょこっと顔を出し、二人の様子を確認する。


「いけそう?」


「あぁ、やれ鈴香」


「あいよー!それじゃあむーさんの足元に狙いを定めて……水晶生成!」


 一瞬だけ瞳を金色に変え、そう言って僕がむーさんの踵を押し上げるように小さな水晶の壁を作ると、むーさんは予想通りよろけてとらちゃんを押し倒す。


「そしてすぐ削除!よし!完璧だ!二人の様子は!?」


「固まってる固まってる、どうやら上手くいったみたいだぞ」


「おぉっ!」


 なんか喋ってるみたいだけど、流石にそこまではわかんないか……


「でもなんだかよさげだね!」


「だな!さてそれじゃあ俺らもバレて怒られる前に退散しようぜ!」


「何をやって何処に退散するのかしら?」


 作戦の成功を見届け、退散しようとした僕達は後ろからそんな声が聞こえ恐る恐る振り向く。するとそこには──────


「なんか姿を見ないと思ったらやっぱり何かやってたのね?」


「あっ、いやこれは!」


「お、俺たちはちょっと人助け、いやひと押しを」


「言い訳無用!」


 背中に阿修羅を浮かべたさーちゃんが立っており、僕達はこってり叱られたのでした。

 しかしその後、とらちゃんがなんだかぽーっとしてたり、むーさんが顔を赤くしてたりと、どうやら僕達がさーちゃんの落雷を喰らった甲斐はあったようだ。

 そして雷を喰らった後の僕達はというと……


「まぁあの二人に進展があったのは喜ばしい事ね」


「で、でしょ?だからささーちゃん……」


「頼むからサナ、その結びつけてる紐を解いてくれないか?」


「あらダメよ、紐解いたらまた何かやるでしょ?」


 さーちゃんに紐を付けられ物凄く恥ずかしい思いをしていた。


「もう何も悪い事しないよー!」


「鈴香の言う通りだ!少なくとも今日は何もする気はない!」


「それでもダーメ♪休憩時間中はこのまま二人共大人しくしてなさいねー」


「「ごめんなさーい!」」


 こうして、僕達の雪山登山は平和に過ぎていくと────






 この時は誰しもがそう思っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る