第139鱗目:理解、龍娘

「や……どうしてっ…………」


 嘘……!なんでこいつがここに!?刑務所に放り込まれたはずじゃ……


「鈴ちゃん大丈夫落ち着いて!今は皆も居るし、田上は取り押さえてあるから!大丈夫、怖くない怖くないよ」


「う、うん……」


 やつれてボロボロになっているがその姿を見て以前田上から感じたあの気持ち悪さを思い出した僕は、思わず逆鱗を隠すように首に付けているチョーカーの上から手を当て、自ら苦しくなる程手に力を込めてしまう。

 しかし直ぐに僕の異変に気づいたちー姉がすぐさま僕を抱きしめ、頭を撫でながら落ち着かせてくれたお陰で、なんとか僕は冷静になることが出来た。


 そう、大丈夫……大丈夫だ………今は先生達が押えてくれてるし、何かやろうものならすぐさま金城さん達が取り押さえてくれるんだから…………


「証拠映像、証言、全部取れましたし、とりあえず何か余計な事される前にとっとと交番まで連行しましょう」


「えぇ、そうしましょう。ほら、行くぞ、大人しくついてこい」


 それにしても、刑務所に居るはずのこいつがどうしてここに……?いや、今それはどうでもいい、この後すぐ分かる事だ。

 それよりも、今はとりあえずこの男が何もしないか見張るのが大事だよね、流石にこの状況で何か出来るとは思えないけれど、窮鼠猫を噛むって言うし念の為ね。


「いやー犯人にはびっくりしたけど、鈴ちゃんを追いかけ回してた犯人を捕まえる事が出来てよかったよ」


「ん、後で皆にお礼言わないと」


「ねー」


「おーい!すずやーん!」


「あ、とらちゃん」


 そういや巻き込まないようにってとらちゃんに説明してなかったや、今からでも説明してあげないと……でもなんだろう…………?この悪寒みたいな、背筋を這うようなこの感じは…………


 こちらへとかけてくるとらちゃんを見て僕がそんな事を思っていると、連行される田上の横をとらちゃんが通る直前、田上の口がニヤッと動いた。

 その瞬間────────


「とらちゃん逃げてっ!」


「えっ!?すずやんどーしたっ────────」


 感じていた悪寒の正体に気がついた僕はとらちゃんへとすぐさま叫んだ、しかし僕が気付いた時にはもう遅く。田上は抑えていた先生を振りほどき、とらちゃんの頭を掴んだ。

 そしてポケットからナイフを取り出すと、それをとらちゃんの首元へと持っていき──────────


「お前ら動くなぁァァァァァァァ!!!!」


「ちょっ!離せこの変態ッ!」


「黙れェェエ!!」


「ヒッ!」


「とらちゃんっ!」


 やられたっ!もっと早く気がつけたなら!でも今はとらちゃんを助け───────


「動くなと言っただろォォォオ!?」


「ッ!」


 僕が足に力を込めたのを感じたのか、それとも動こうとした金城さん達を見たのか、田上がポケットから取り出したナイフは更にとらちゃんの首へと押し当てられ、真っ赤な血が一筋流れる。


「よ〜〜し、いいぞ、それでいいんだ……お前らは大人しくワシの言う事を聞けばいいんだ………全員ワシが許すまで指1本も動かすんじゃないぞ…………」


 ダメだ、これじゃ迂闊に動けない……!とらちゃんを助けられない!


「ひぐっ……えぐっ…………」


「ふひひひひ……なかなかにいい顔するじゃないか…体つきはワシ好みではないが………ワシが逃げ切るまでたっぷり面倒見てやるからな!」


「───────ッ!い、いやっ……!そんなんいやや……!ぐずっ……すずやん………助けっ…………」


 ボロボロと涙を流しながら僕を見て助けを求めるとらちゃんの首へとナイフを突きつけ、後ろでいやらしい笑い顔を浮かべる田上を見て、僕はその時確かにプチンと何かが着れるような音が聞こえた。

 そして次の瞬間─────────


「ひひひひひっ!さぁて、それじゃあ逃げるとするか─────────の?」


 いつもの若葉色でもなく、能力を使う時の金色でもなく、僕は目から赤色の光の尾を引き、牙をむき出しにして田上へと飛びかかっていた。


 そして次に僕が気を取り直した時、僕は視界に映った光景を見てひとつのことに気がついた。

 腕をあらぬ方向へ曲げ、白目を剥いて頭から血を流す田上と、涙を流し僕を見て震えるとらちゃんの姿、そしてそれらを見ても僕はいっぺんたりとも何も感じてない事に。


 そう、この時だ、僕が改めて頭ではなく、理性ではなく、心で、感情で理解してしまったのは。

 例え僕がどれだけ普通の人の様に暮らしていたとしても、例え僕が龍としての能力を使うことも無く生きていたとしても、僕が僕である限り。


 どう足掻いても僕は人では無いという事に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る