第82鱗目:早朝!龍娘!

「んっ……んんーっ!ふぁぁ……よく寝たぁ……」


 昨日の疲れが残っていないスッキリとした気持ちで目覚めた僕は、カーテンを開けて気持ちよさそうに翼を広げ大きく伸びをする。


 ちょっと涼んでこようかな。


 外の光でうっすらと澄んだ青色に染まっている部屋の中、寒くないようにと僕は上から1枚羽織ってぺたぺたと足音を響かせて玄関へと向かう。

 スリッパを履いてからからと音を立てて玄関を開けた僕は朝の冷えた空気を吸うと、翼を大きく1度羽ばたかせてトンっと地面を蹴り、うっすらと青い明るさの中翼を羽ばたかせ空へと飛び立つ。


 うぅぅ……やっぱりちょっと寒い………やめときゃ良かったかも……………


 ヒュウウウウと風が鳴る中、家が小さく見える程の高さへ飛び上がった僕は、自分の腕を抱きながら眼下の町を眺めていると。


「わぁ…………」


 灯のほとんど着いていないいつも見ている町とは全く違う静かな町が、朝焼けの黄金色に染められていく様子をみて僕は言い表せない感動を覚え思わず声を上げた。

 青みがかった空気は消え去り、柔らかい朝日に包まれだした頃、朝焼けに見とれていた僕はそろそろ戻ろうと地上へと急降下をする。


 ん?誰か走ってる……?もしかして……


 急降下である程度高度を落とし、翼を広げ滑空していた僕は、地上に見える田んぼの横にある道を誰かが走っているのが見えた。

 それを見た僕は翼を折り畳んでその人が誰か分かるくらいまで更に高度を落とし、その走っている人の顔を確認するとバサバサと翼を羽ばたかせ、その人の横に着地する。


「隆継おはよ!」


 いきなり横に着地され驚いていたその人、隆継に僕は元気よく挨拶をしたのだった。


 ーーーーーーーーーー


「いやー、ビビったわ、まじでビビったわ、あーほんとビビったわ」


「ご、ごめんって隆継ー、朝ごはん1品増やしてあげるからー」


「それなら許す」


 驚かされて少し怒っている隆継と一緒に家へ帰りながら、僕は隆継の前で器用に後ろ歩きをしながらそう言って両手を合わせて謝っていた。


 それにしても筋トレしてたのは知ってたけど、ランニングまでしてるなんて知らなかったよ。

 こんな朝早くから隆継も凄いなぁ。


 そう、丁度僕が隆継と合流した時隆継はランニング帰りだったのだ。詳しく聞くと、こっちに越してきて道も覚えてきたからそろそろ再開しようと試しに今日から走ってみた所らしい。


「「ただいまー」」


 坂道を登り終え、家へと帰り着いた僕達はそう言って家へと上がる。そして朝ご飯は何がいいかなんて話しながら脱衣場へと顔を洗いに行く。


 あ〜、水分が持って行かれた顔に水が染み込む〜。


「ぱはっ!ふー……先に使わせてくれてありがと隆継ー、次どうぞー」


「おーう」


 先に洗面台を使わせてもらった僕は、顔をふっかふかのタオルで拭きながら隆継にそう言って洗面台を譲る。


 あーすっきり、さて朝ご飯を作って…………ん?あっ!


「隆継隆継!」


「ん?どうした」


「もしかして髭?それって髭!?」


 落ち着いてから改めて見たからか、隆継の顎や鼻の下に髭っぽいのがある事に気がついた僕は、もしかしてと思いテンション高く隆継に聞く。


「うげっ、まだいいって思ってたのに…………剃らねぇとっ!?鈴香!?」


「うぉおお……!じょりじょりしとる……!」


 これが……髭…!こんな感じなのか……!

 僕はまだ生えてなかったからなぁ……初めて触った……!


「やめっ!このっ!力強ぇ!」


 鏡を前にしていた隆継の襟をグイッと引っ張り隆継の顔を僕の顔の近くまで持ってきて、抵抗する隆継の頭を抑えて髭を触りながら近くでまじまじと観察していた。


「そっかぁ、隆継はもう髭が……ふひひっ、面白い触り心地…………」


「くっ…こんのっ……!そらっ!」


「ぴうっ……なっなにっをっ!?ふふゅっ……やめっ!こそばっ…ひひひっ!」


 隆継の髭を堪能していた僕はいきなり隆継に押し倒されて髭をじょりじょりと押し付けられ、こそばゆさに足や翼をぱたぱたと動かしていた。

 そして最早お決まりというべきか、そんなタイミングで脱衣場の扉が開かれ。


「たーかーつーぐー?何をしてるのかしらー?」


「隆継くん?ウチの大事な大事な鈴ちゃんになーにしてるのかなー?」


「いや!これはっ!」


「はーーっ……はーっ…やめてぇたかつぐぅ………はひっ…はぁ……はぁ……」


 オーラのようなものが見えるさーちゃんとちー姉ちゃんに、悶絶している僕の上に乗っかっているのを見られた隆継は、ダラダラと冷や汗を流していたのだった。

 この後、隆継、そして何故か僕もさーちゃんとちー姉ちゃんにみっちりと怒られたのだった。

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