第70鱗目:おかしな日、龍娘!

「ねぇさーちゃん」


「何かしら鈴」


「なんか今日色んな人からお菓子貰うんだけど……」


 そう言って僕は机の上に山の如く積み上げられたお菓子を見見上げながら、さーちゃんへ「これどうしよう」といった目線を送る。


「そうねー、全部貰っちゃったら?」


「いくら僕でもこんなには食べないよ!それにまずもって持って帰れないし」


 はぁとため息をつく僕の横で「食べれなくはないのね」とさーちゃんに思われている事など知らず、僕はどうしよう頭を抱える。

 そうクラスメイトの人がくれる最初の数個くらいまでは僕も純粋に喜んで貰っていたのだ。

 だが20個を越す頃には流石におかしいと思い始めたものの、周りが歯止めが効かず俺も私もと次々渡されている内に…………気が付くとこんな小山とは言えない大きさにまでなっていた。


 いったいどうしてこうなっちゃったんだろう。


「とりあえずアタシがビニール袋いくつか持ってるから、それに入れられるだけ入れちゃうわよ」


「はーい」


 遠い目をしたまま返事をした僕はさーちゃんに手伝って貰いながら、貰ったお菓子をビニール袋へと入れ始める。

 なんとか全てのお菓子をビニール袋に詰め込み、僕とさーちゃんは一仕事したと言わんばかりにふぅとやり切った顔になっていた。


「天霧さんちょっと来てもらっていいかな?」


「はい、なんでしょうか」


 僕とさーちゃんが一息ついていた所で僕は代永先生に呼び出される、それを聞いてさーちゃんがヒソヒソと話しかけてくる。


「何かやらかしたの?」


 やらかしたって言われても…………うーんお菓子の事くらいしか。


「お菓子の事じゃない?とりあえず行ってくるね」


「まぁそうね、行ってらっしゃい」


「うん、行ってくる」


 僕はそう言うとさーちゃんへ手を振り、代永先生に連れられて僕は教室の外へと出ていった。


 ーーーーーーーーーーー


「お客さん、ですか」


「はい、天霧さんの知人を名乗る方が何人か来てまして」


 知り合いって誰だろう?せんせーとか?

 確かにこうなる前の知り合いは多いけど……まずわかんないでしょ、こんな姿形どころか性別まで変わってるんだから。


「とりあえず応接室の方に1人ずつ通しますのでそこで少しお話を。もし知らない人だった場合遠慮なく言ってくださいね」


「はい、分かりました」


 僕は代永先生にそう返事をすると応接室へと通され、そこで待っていた校長先生の座っているソファーへと座らされる。

 そして暫く校長先生とお話したり、翼を動かして座り方をなおしていたりしていると、ドアがコンコンとノックされる。


「どうぞ」


「失礼します」


 校長先生がどうぞと言い、それを聞いて代永先生が扉を開けて後ろに人を連れて入ってくる。そしてその入ってきた人は僕が見た事すらない人で…


「どうもどうも、ワタクシフリーのジャーナリストをしています藤──────────」


「おかえりください」


「えっ、あの」


「おかえりください」


 僕はその売り込みのように僕の前へと名刺を出してきた僕の知り合いを騙るフリーのジャーナリストさんへ、間髪入れずに帰るよう僕は笑顔で言う。

 すると代永先生は直ぐにそのジャーナリストさんを、一緒に来た体育の先生であるムキムキのマッチョマンの護里先生と一緒に外へと追い出す。


「あ、校長先生」


「あっはい、なんでしょう」


「日医会に連絡してもいいですか?もしそういう人が居たら連絡してくれって言われてるので」


「あぁうん、それなら構わないよ。ほら、使って使って」


「ありがとうございます」


 僕がそう言うと校長先生は携帯電話を差し出してくる、僕は校長先生にお礼を言い、その携帯を使って三浦先生達と連絡を取る。

 土曜日の一件の後三浦先生達が対策を立ててくれたらしく、あれ以来大きい所からの取材という名の押しかけは無くなった。

 しかし、個人で活動している人は来るかもしれないから、もし来たら連絡してくれと僕は三浦先生に言われていた。

 ちなみに何をしたのか聞いても詳しくは教えて貰えなかったが、僕を日医会に所属させておく事で日医会の法務部を動かしているとの事だそうだ。


「ありがとうございました、直ぐに対応してくれるそうです」


 三浦先生と電話を済ませた僕は、ペコッと校長先生へ頭を下げて携帯を返す。


「それは良かった、さて丁度次が来たみたいだね。どうぞ」


 校長先生のどうぞでまた次の人、次の人と入ってくる。しかしどの人も僕の知人なんかでは全くなく……


「私はこの子の叔母でして、それで─────」


「おかえりください」


「おじちゃんの事覚えてねぇ────」


「知りません、おかえりください」


「貴女のお兄さんが────」


「僕一人っ子なんで」


「ほら、昔よく遊んであげた───」


「遊んだことなんてないです」


 チャイムもとっくの昔に鳴り、もう30人切りくらい余裕で達成したであろう僕は最後と言われた人を相手にしていた。


「私は君の────────」


「知りません、分かりません、誰ですか貴方はさっさと帰ってください」


 いい加減苛立ってきていた僕のその容赦のない言葉を受け、愕然としている男を代永先生が連れ出して行くのを前に、校長先生は麦茶を僕の前に置いてくれる。


「お疲れ様」


「はい、本当に疲れました。せっかくの授業も半分くらい潰されたし……」


「ははっ、天霧さんは真面目ないい子だね。ちゃんと正式な理由で受けれなかった事にするから少し休憩して次の時間から行きなさい」


「はーい」


 校長先生にそう言われ、僕はズズズとよく冷えた麦茶を飲んでゆっくりと次のチャイムまでの時間を過ごす。


 僕はいつになったら普通の学校生活に戻れるのかなぁ。


 セミの鳴き声が聞こえる中、僕はぼーっとそう思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る