第64鱗目:朝、龍娘
むくりと布団から僕は起き上がり、いつも通りカーテンを開けようと手を伸ばし、開けようとしたギリギリで手を止める。
ととっ、危ない危ない。今は開けちゃダメだった。
なんとかギリギリで留めた手をカーテンから離し、危ない危ないと首を振ってから僕は翼の拘束具を外し始める。
拘束具を外してぐぐいっと翼を広げて伸びをしてから僕は部屋を出てリビングへ向かう、するとリビングには疲れ顔のちー姉ちゃんと陣内さんがいた。
「もしかしてまだ?」
「おはよう鈴香、案の定まだ居るぞ。ほれ、みてみろ」
僕がそう聞くと陣内さんは苦笑いを浮かべながらリモコンでピッとテレビをつける。
するとテレビには僕の家が写っており、「まだ現れません」などと言ってるニュースキャスターの周りにも沢山のテレビ局や野次馬が映り込んでいた。
「鈴ちゃんおはよう、よく寝れては………………なさそうね、ほらこっちおいで」
「うん……」
「よしよし、怖くない怖くない」
テレビコーナーに敷かれたカーペットに座っているちー姉ちゃんがぽんぽんと膝を叩き、僕はそこに顔を埋めてむぎゅっとちー姉ちゃんの腰に抱きつく。
「まぁ、いつかなる分かっちゃいたことだが……ここまで早くて大人数とはなぁ」
そんな陣内さんの呟きを聞きつつ、僕は顔を覆う柔らかい感触を感じながら昨日のことを思い出す。
とらちゃんにアダ名などを付けていた日、僕達が家に帰りつくとそこには沢山の人が待ち構えていた。
その人達はトラックから僕がでてきた瞬間、僕にマイクなどを突きつけて来ながらガシャガシャとシャッターを遠慮なく切ってきた。
僕達はなんとか家に入ったもののその後は一晩中、外からカーテン越しのシャッターの光や拡声器で大きくされた声、インターホンの音などに僕らは襲われていた。
朝の早い時間だから今は静かだけど…………すぐに昨日の夜みたいになるのかな………………
きゅっと少し強くちー姉ちゃんに抱きついて、僕はこのままじゃダメだと顔をあげる。
「これ、警察沙汰とかにできないんですかね?」
ぷはっとちー姉ちゃんの膝から顔を上げた僕は陣内さんにそう聞いてみるが、陣内さんは多分無理だと答えるのみだった。
その答えを聴きながら陣内さんから受け取ったアイスココアを飲んだ僕は、少しだけ考える余裕が出来たような気がした。
そして気を取り直して着替えや朝食などを僕達が終わらせた頃、ピンポーンというインターホンの音を皮切りに昨夜と同じ事が再び始まった。
ピンポーン……ピンポーン……
カシャカシャカシャカシャ────
『少女を解放しろー────』
そんな聞きたくもない音が聞こえてくる中、昨日以来初めて考える余裕が出来ていた僕はふと現状を打破出来そうな案を思いつく。
「ちー姉ちゃんに陣内さん、ひとつ試してみてもいい?」
「…………鈴ちゃん?いいけど…………なにするの?」
不安そうな顔のちー姉ちゃんに僕はニヤッとしてみせ、一言。
「現状打破」
と言った。
ーーーーーーーーーーー
「────ということです」
『わかった、実際注意書きはあったんだ、気が付かなかったは言い訳にはならん。徹底的に容赦なくやってやれ。俺らもすぐに行く』
「了解しました。三浦先生本当にありがとうございます」
『任せろ、それじゃあまた後で』
「はい、また後で」
がちゃん
僕は三浦先生へと連絡を取り、今から何をやるかを伝えて了解を貰う。僕はお礼を言って受話器を置き、ちー姉ちゃん達へと振り返る。
「それじゃあ、さっき話した通りに。陣内さんは見張りをお願いしますね、ちー姉ちゃんは部屋の用意お願い」
「任せてくれ」
「わかった」
僕は2人にそう指示を出し、最後にもう一度互いに顔を見合わせて僕達は頷きあい、互いの役割、そして覚悟を確認する。
それを見た僕は翼を大きく広げ、これまた大きく1度動かすとニィッとイタズラが成功した三浦先生のような悪い笑みを浮かべる。
人を食い物にしようとしてるんだ…………噛みつかれてひどい目にあっても文句はないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます