19鱗目:お勉強!竜娘!
ん……むぁ……
「ふぁ……んにゃあ……よく寝たぁ……」
今何時だろ……ってうわ、もう9時だ!こんな寝坊するなんて久しぶりだぁ……
尻尾を抱っこしたままゆっくりと起き上がり、枕元の目覚まし機能は全く使われてない目覚まし時計を確認した僕は、普段なら起きている時間に驚いてしまう。
「じゃないじゃない、驚いてる場合じゃない。急いで千紗お姉ちゃんの朝ごはん作んないと。10時には千紗お姉ちゃん三浦先生達の場所に行かなきゃなんだから」
明日からは気をつけよう。うん。
ーーーーーーーーーー
「おい鈴香!」
「ひゃい!」
「よかった。なんかずっとボーッとなっててびっくりしたぞ」
「あれ?僕そんなぼーっとしてました?」
体感的には数十秒くらいだったんだけど……
「そんなも何も、検査が終わってから1時間経ってる間ずっとボーッとなってたぞ?大丈夫か?」
「うそそんなに?!」
やばい、思ったよりも時間経ってた!
体感よりも数百倍時間が経っていた事を三浦先生に教えてもらった僕は、驚きのあまりそう言うと同時に尻尾をピンと立ててしまう。
「……本当に大丈夫か?」
「あ、はい!大丈夫です三浦先生!別におかしい所は何一つ無いです!」
「そ、そうか。それならいいんだ。おう」
ーーーーーーーーーー
「すっずちゃーん!お姉ちゃんと遊ぼー!」
「あ、千紗お姉ちゃん」
夜、むぎゅーっと恒例の抱きつきを千紗お姉ちゃんから貰いつつそう言われた僕は、前ならノリノリで遊んだはずなのに今は全然気乗りせず……
「なんだか面ど……じゃなくて体がダルいし、また明日でいい?」
「体がダルい?大丈夫?三浦さんに見てもらう?」
「いや別にそこまでじゃないし、大丈夫だよ大丈夫」
「……本当に?」
「ほんとほんと、んじゃ僕寝るねー。おやすみっ」
そう言って僕は慣れた様に尻尾と翼を寝る時の形に持っていき、さっさと布団を被って寝てしまう。
そしてそんな僕を、千紗お姉ちゃんはじっと見つめていたのだった。
そして翌日────
ーーーーーーーーーー
「よし、鈴香。今日から勉強をしよう」
「勉強?」
なんで唐突に……
「……まぁ、いいですけど」
午前9時、朝イチで三浦先生に呼び出された僕は三浦先生からのその提案に、首と尻尾を傾けつつも二つ返事で承諾する。
「よし!それじゃあ決まりだな。流石に教員免許を持ってる奴は居ないが、それでも高校までの勉強なら見れるヤツは揃ってるからな」
「よし、それじゃあとりあえずこれに着替えろ。着替え場所は俺の事務室を使っていいぞ」
「……入らないでくださいね?」
「入らない入らない。ほれ、さっさと着替えてこい」
そうなんか雑に言われ相変わらずちょっとオシャレな三浦先生の部屋へと押し込まれた僕は、手に持たされた服を広げ、いつものように着替える。
そしてその僕が着替えた服は────
「お、似合ってるじゃないか」
「似合ってるじゃないかって……なんでよりにもよって女子用の制服なんですかっ!」
俗に言うセーラー服というやつだった。
「勉強するなら制服に決まっているだろう?それに、将来的に学校に行くにしても女子として行く事になるんだから、女子の制服を着てもなんら問題はない」
「でっ、でもっ!」
女子の制服なんか着たことないし……
「まぁ慣れんだろうが、いつかは着ないといけなかったんだ。諦めろ」
「むぅー……」
僕の考えなんて手に取るようにわかると言わんばかりに三浦先生にそう言われ、僕はほっぺを膨らませる程度の抵抗しか出来なくなる。
「さて、それじゃあさっさと部屋移動して授業を始めるぞ」
「えっ!もうですか?!」
「当たり前だ。世の学生はこの時間、普通なら学業に励んでいるんだからな。一応は高校生のお前も励め」
ドラゴンっぽくなったり女の子になってたり、こんな場所にもう1ヶ月?2ヶ月?それくらいここで過ごしてたせいで忘れてたけど、そういや僕高校生だったや。
「……お前、流石に自分が学生であるって事忘れてたとか────」
「な、ないから!それはないから!それで三浦先生?最初は誰が勉強教えてくれるの?」
「ふふふ。お前の1番最初の授業を受け持つのは……」
……ごくっ。
「この俺だ!」
「ずこー!」
「ずこーってなんだずこーって!わざわざ口にしなくても良いだろ!」
「いやだって……三浦先生あんまり教えるの上手じゃなさそうだもん」
「ほぅ……?そこまで言うか。ならいいだろう!俺の実力、たっぷり見せてやんよ!」
こうして、三浦先生による僕への特別授業が幕を開けた。
そして1時間後。
「うし、それじゃあ今日はここまでだな。どうだ?分かりやすかっただろう?」
「……はい」
「ん?なんて言ったか聞こえないなぁ」
「とっても分かりやすかったですっ!」
まさかたった1時間で渡された化学の教科書全部理解し切れるなんて思ってなかったよっ!
見事、三浦先生の手腕により渡された初めて習う範囲の教科書の内容を全部理解してしまった僕は、悔しいながら三浦先生の確かな教鞭の手腕を認めざるを得ないのだった。
ーーーーーーーーーー
くそぅ……さっきはまんまとしてやられたけど、今度はそうそう上手く行かないからなー!
いや、授業はきちんと受けるし、ちゃんと理解しようとは思ってるけどね。
「はーい。それじゃあ授業始めるよー」
「あれ?大和さん?三浦先生は?」
「はぁーい鈴香ちゃん♪二限目の英語はアタシが担当するから、あっちで疲れたって燃え尽きてた三浦さんは来ないよー」
あ、そうなんだ。ふーん。
「なぁに?三浦さんじゃなくてガッカリした?ウチでごめんねぇ?」
「ちっ、ちがっ!そんなんじゃないからっ!」
「ふふふっ、大丈夫大丈夫。そのふりふり嬉しそうに揺れてる尻尾を見れば、鈴香ちゃんがそんな事思ってないのは一目瞭然だから」
「へ?わっ!みっ、みないでー!」
三浦先生が僕の為に頑張ってくれたんだという嬉しさで揺れていた尻尾を指摘され、ふふふと微笑ましげに笑う大和さんを前に僕はそう言いながら慌てて尻尾を抱き抱える。
「さて、それじゃあ授業をはじめよっか!んじゃまずは────」
ーーーーーーーーーー
「ふぅ……」
こう、部屋が学校風なのに飲んでる物がいちごミルクな所に違和感があるけど、美味しいからヨシ!
「いやぁーでも、大和さんの授業はやりたい事がこっちにも明確に分かって助かるや」
とりあえずテストテストテストーだったけど、そのお陰で次の授業はどこをやるかとか明確に決まったみたいだしね。
「ん?まだくつろぎ中だったみたいだな。もう少し待とうか?」
「あ、柊さん。大丈夫ですよ!丁度飲み終わりましたし!」
ぺこっといちごミルクの紙パックを潰し、入ってきた柊さんにそう慌てて返事をした僕はそう言いながら、柊さんが手にもつ数学の教科書を見つける。
「柊さんは数学なんですか?」
「そうだ。これでも日医会の財務管理者を任されているからな」
「えっ?!」
柊さんってそんな凄い人だったの!?
「そんなに尻尾をピンと貼って警戒しないでおくれ。そんな役職に着いてはいても、いつもは平社員として過ごさせてもらってるんだからな」
「な、なるほど……」
普通の人なら「どーだ!すごいだろー!」みたいに振る舞うんだろうけど、そんな事しないのがこの柊さんがかっこいい所なんだろうな。
「よし、それじゃあ授業を始めるぞ。俺はとりあえず他の奴らと違って基礎から教えていくからな」
「はーい」
ーーーーーーーーーー
くきゅるるる……
「あっ」
「あら、今のは……」
「えへへ、ごめんなさい。お腹空いちゃって……」
4限目、今度は国語の授業を趣味で俳句なんかを嗜んでるらしい花桜さんに教えて貰っていた僕のお腹から、そんな気の抜ける音が部屋に鳴り響く。
「ふふっ、いいのよー。えっとそれじゃあ、丁度キリのいい所だし、少し早いけどお昼ご飯にしちゃいましょ。どうせ後10分なんだし」
「わーいやったー!」
おっひるっごはーん♪今日は何を作ろうかなーって、この匂いは?
「お昼までお勉強したのに、自分でお料理するのも大変でしょう?だから代わりに、私が作って来ましたよー♪」
まじかっ!助かるー!
「ふふっ♪尻尾振っちゃって可愛いわぁ。さ、一緒に食べましょ」
「はーい!」
ーーーーーーーーーー
「ふしゅー……」
つ、疲れたぁ……
「ふふふっ、鈴ちゃんお疲れだねぇ」
あの後、陣内さんによる語呂合わせ日本史、教える側の島内さんと一緒に勉強した情報などの授業を済ませた僕は、翼や尻尾をだらりとさせベッドに顔を埋めさせていた。
「でも良かったんじゃなーい?最近の鈴ちゃん少しだらけて来てたし、三浦さんの気まぐれだけど少しはきちっとした生活になるんだから」
「!」
なるほど、だから三浦先生はあんなこと言ってでも僕を……
「なら、頑張らないとだ」
「お、やる気だねぇ鈴ちゃん。頑張るんだよ?」
「うん!」
こうして僕のほぼ毎日の日課に、お勉強が追加されたのであった。
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