5鱗目:お着替え!龍娘!

「はい、これ着てね」


 なんて言われながら唐突に「女物の洋服」を手渡され、そんな未知の物を受け取った僕はというと……


「あの、これどうすれば…………」


 初めて見た実物の女物の下着に顔を赤くしながら、どうすればいいか分からない、というか分かりたくない僕はおずおずとどうすればいいか天霧さんに尋ねる。


「ん?それ?どうするも何も貴女の着替えよ?あ、スカートの履き方分からなかったら教えてあげるからね」


「え?いや、あの…その……」


 き、着ろと……?これを?僕が?この三角形のしましまのを?

 …………………………うん、無理。


 そう判断して僕がそっとそれらを床に置き再び病院服に手を伸ばそうとすると、横から腕を掴まれる。

 そして腕を掴む手の方へ僕がゆっくり振り向くと、そこにはにっこりというよりにっごりという笑顔を浮かべる天霧さんが居た。


「着ましょうね?」


 その笑顔という名の圧力を受けて僕は抵抗できずに────


「はいぃぃぃ……」


「うん、偉い!」


 承諾してしまったのであった。

 天霧さんは褒めてくれたが、内心「どの口が言う」という気持ちである。

 しかし抵抗出来ない僕は天霧さんの差し出してくるその衣服を受け取り、複雑な想いで改めてそれを見つめる。


 着なきゃ……いや履かなきゃだめなのかぁ………………

 というか僕は男だったのに人生で初めて手に持った女性用のが自分のっていうのはなんだか複雑な気分だなぁ。

 そういやこのキャミソール?っていうのの背中の方?がすっごい空いてるんだけど……女の人の肌着ってみんなこうなのかな?

 少なくとも前がこんなに空いてるわけないと思うし……


「あ、あのっ!」


 間違えて着たらただただ恥ずかしいだけなので、考えても分からなかった僕は勇気を出して天霧さんに聞こうと声をかける。

 その声に天霧さんは気がついてくれたようで、直ぐにこっちを振り向いて質問を聞いてくれた。


「どうしたの?」


「あ、あの。これ……背中の方がこんなにあいてるものなんですか?」


「キャミソールの背中?それは翼を通す為だよー。ほら、先に背中の空いてる所の下のチャック外してからここに手を通して、チャックを閉めれば……うん!バッチリ!」


 そう言って天霧さんはキャミソールとやらを実際に僕に着させてくれる。


「背中が大きく空いてるのは申し訳ないけどね。でも改造してこうでもしないと翼を通せなかったの、ごめんね?」


「だ、大丈夫です!」


 天霧さんに申し訳なさそうな顔でそう言われ、僕は改めて近くに置いてある残りの服へと目をやる。

 抵抗はあるが僕の為にわざわざ改造してくれたのに着ないというのは、それはそれで申し訳ない。


 そんな悶々とした気持ちで僕は再び両手で持った服達を複雑な顔で僕がいつまでも服と睨み合っていると、天霧さんが声を掛けてくる。


「そんなに抵抗ある?」


「あ、えーっと……はい。せっかく作ってくれたのに申し訳ないですが、まだちょっと抵抗が……」


「そう……いや、普通そうだよね。体こそ女の子でも心はまだ男の子なんだし、普通抵抗あるよね」


「はい……すいません」


「ううん!こればっかりは仕方ないよー。でもちょっと頑張って着てみない?学校にまた行けるようになったら女の子として通う事になるんだし、今から慣れた方が……」


 今なにか…………学校って………え?学校?学校にいけるの?!


 天霧さんの口から出た学校という言葉に僕は天霧さんの方へ振り向き、興奮した面持ちで肩を掴んで問いただす。


「あ、天霧さん!僕学校に行けるようになるんですか!?」


「え?えぇ、そうよ。一応私達の最終的な目的は貴女を研究させてもらいつつ日常生活に戻して、その後も研究させてもらう事だから」


「な、なら学校にも行けるように?!」


「……!そうよ!だから頑張ってみましょ!学校に行く為よ!」


「はい!…よし、やるぞ……やってやるぞ…………!」


 そもそも僕は今女の子なんだ。

 だから別に女物の下着を来ても一切問題はないし逆に男物を履く方がおかしいくらいだ。

 だからこれは必要な事、学校に行く為にも必要な事だ、だから大丈夫、正義は我にあり!


 僕はそう決意を決めてくわっと目を開けて三角の布に勢いよく足を通し、そのまま腰まで引っ張りあげる。


「おぉ……」


 尻尾の付け根に当たった所で僕が手を離すと、少し柔らかめな感覚が腰や股にぴったりとフィットし、なんとも言えない感覚に思わず声が出る。

 そして何処と無くその初めて体験するフィット感に、僕は確かに相棒が無くなっている感覚と、凄い安心感を覚えた。


 思ってたよりも柔らかい……というかフィット感が凄い!

 こう…ぴっちりしてるけどふわっとしてる感じというか、凄い安心感がある。

 ちょっと尻尾の付け根に布が当たってこそばゆいけど、それはしかたないよね。

 ……とはいえ、うん。……本当に無くなっちゃったんだなぁ……


 ふりふりとと少し尻尾を軽く動かして尻尾へのパンツの収まりを調整した後、次はキャミソールと同じように改造されたTシャツに袖を通す。

 とはいえ、これも普通に頭から被る事は出来ないのでキャミソールと同じ要領で身につける。


 その後スカートを履くことになったのだが、スカートには尻尾用の大きな穴、言うなれば尻尾穴が開けてあった。

 スカートはウエストがゴムになっており、天霧さんに教えて貰った通り履くようにして腰まであげた後尻尾穴の上部分のホックを外し、尻尾を穴に入れる。

 ふとなぜホック式なのかと疑問に思い、天霧さんに聞いたところ「そっちの方が尻尾通さなくていいし楽でしょ?」との事だった。

 これにて僕の女の子になってからの初めての着替えは無事に終了したのだった。が。


 うぅぅ……スカートのまとわりつく感じとヒラヒラが落ち着かない……!そしてそれ以上に背中がすっごく空いててちょっと寒いし恥ずかしい!


「あ、そうそう。これプレゼント!」


「プレゼント?」


 背中が空いている寒さで体をぷるりと震わせていると天霧さんが僕に袋を渡してくる。


「そう!これからよろしくねっていうプレゼント、貴女とは多分私が引退するまでの付き合いになるからねー」


「おー…………これは……?」


「ケープっていう上から羽織るやつだよ」


 天霧さんが渡してきた袋から中身を取り出すと、生地が少し薄い水色のケープと言うやつが入っていた。

 天霧さん曰く「これで背中の空いてるところも隠せるね」だそうだ。

 僕は生まれて初めてプレゼントという物を貰ったという、言葉に出来ないほどの嬉しさをそのケープを抱きしめつつ噛み締めていた。


「すっごいふかふかしてる…………天霧さんありがと!」


「ふふーん、そうでしょ?だいぶ厳選したんだから♪さて、行きましょ」


「はーい♪ふかふかー♪」


「かっ、かわっ!」


 天霧さんに返事をしつつ、両手で持ったケープに目を閉じてニコニコ笑顔で顔を擦り寄せていたら天霧さんが壁に手をついてプルプルとしていた


「天霧さん?」


「ううん、なんでもない!ほら行こ?」


「はーい。んー♪」


 僕は嬉しさで胸がいっぱいになりつつケープを羽織り、そのふかふかを堪能しながら脱衣場から出たのだった。

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