こんな夢を見た/展示車を勝手に運転した
青葉台旭
1.
ある朝、私は誰よりも早く出社した。
夜が明けるか明けないかという時間で、町は薄暗く、通りには霧が流れていた。
私が勤務している会社の隣は、ある国内自動車メーカー系列の
その
今はもう手放してしまったが、数年前まで、私はその
ふと屋外展示車場を見ると、かつて私が所有していたクルマと同じ車種のスポーツカーが展示されていた。
私の持っていた車は白だが、その展示車両は赤色だった。
私は懐かしい気持ちになって、その展示車に近づいてみた。
窓から車内を
私は思わずドアを開けてその赤いスポーツカーの運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。
独特のエンジン音が響き、懐かしい気持ちが増した。
悪いと思いながらも、つい出来心でギアを入れ、クラッチを繋ぎ、赤いスポーツカーを運転して自動車
薄い霧に包まれた夜明け直後の町を、私は赤いスポーツカーを運転してぐるぐると何度も周回した。
誰もいない町の通りを、目的地もなくデタラメにぐるぐると
そのうち日が昇り霧が晴れて、人々が起きて会社や学校へ行く時間になった。
私は、やっと自動車
どういう訳か、私が勤めている会社と隣の自動車
事務机のモニターに向かって仕事をしていた私の横を、
S氏は私に挨拶をして、隣の
数分後、
S氏は店長に「展示してあったスポーツカーを、何者かが乗り回した形跡があります」と言った。
それを聞いた店長の顔も、見る見るうちに青白くなっていった。
S氏が続けた。「エンジンが熱くなっているし、距離計も昨日より100キロ以上も進んでいるし、燃料計の目盛りも減っています」
店長が「本当なら、大変なことだぞ」と言った。
私は、S氏と
私は、S氏を部屋の隅に呼んで、小さな声で「赤いスポーツカーを乗り回したのは自分だ」と白状した。
それを聞いた途端、いつもは温和なS氏の顔が鬼のようになって「あんた、なんて事をしてくれたんだ、
私は、その場から逃げ出したくなった。
こんな夢を見た/展示車を勝手に運転した 青葉台旭 @aobadai_akira
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