ブルデノアロブスーチー

エリー.ファー

ブルデノアロブスーチー

 酷く暑い日のことだった。

 誰にでもあるような日のことだった。

 時間が過ぎていくのを肌で感じながらも、このまま訳も分からないまま、干からびてしまうのが本気で良いと思える。

 そんな、天気の日だった。

 砂漠の真ん中で特に水もなく、日差しに自分の背中を焼かせながら、私は歩いていた。

 歩いているというよりも、這っていた、というほうが性格だ。

 私はその時、トカゲだった。

 もう少し運が良かったら鳥にでもなれたというのに、どうしても、その希望はかなわなかった。転生の一つや二つ、思い通りにならななければこのレースで生き残ることは不可能だろう。

 しかし。

 私はどうしても運がないし。

 その転生を自分の思い通りにするような賄賂などを行うための資金源もない。

 分かりやすく、この動物ではレースに勝てないだろう、というトカゲに転生させられ、しかも、死ぬのではないか、と本気で思える。正直、レースどころではない。

 トカゲの生態について詳しく知らなかった。というのも、一つの問題点だろう。

 転生する動物の種類くらいは把握して、調べておくべきだった。反省してもしきれない程の大きな過ちと言える。

「こんなにも過酷なレースに参加すると決めた猛者たちが次から次へと脱落しております。かつて、こんなことがあったでしょうか。本当に、本当にただただ心から、無事を祈るばかりであります。このレースで命を落とすということは結果として、転生という行為への着手を捨てることにもつながります。これは、つらい。今後の神へと近づくための大きな競争の中では、痛手となってしまいます。多くの悪魔や天使たちが、命をかけていることは間違いありませんが、その中でも、このレースにかけている者たちの思いは強いものがあるでしょう。EAXやSNS、果ては電話などによっての応援活動が、戦っている参加者の耳や目に届き、勇気を与えられていることを心から祈るばかりであります。」

 このレースは高貴なものではあると思う。

 しかし。

 そこにエンターテイメント性がなければここまでの注目度を稼ぐことは難しかっただろう。誰にも、言えないような神秘性というものを抱えるひつようもあるだろう。しかし、ここで最も重要なのは知られることと、このままでは、意味がないと理解することなのだろう。

 この争いが非生産的であり、いかように頑張ったとしても何か結論に行きつけないことはどうしても明白なのである。

 神になれることは間違いがないが、それは名誉であった、実のあるものに何か繋がるかと言われれば甚だ疑問である。誰もがそのことを感じている。けれど、誰もがそのことについて、口を出せないでいるのである。

「さて、先頭集団がようやく、海へと入りました。ここからは荒れ狂う海との対決だ。」

 このまま続いたとして、誰が誰を、どのような気持ちで応援するのだろう。

 結果、九割、いや、少なく見積もって八割が、非常に不本意な形で敗北し、ペナルティを受け取ることになる。

 あんまりだ。

 あんまりではないか。

 私は携帯電話を取り出すと、人材派遣会社に電話をかける。

「もしもし、あの。嫌気がさしたんで、どうにかしたいんですが。」

 結果、行動するとどうにかなる。

 そういうもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブルデノアロブスーチー エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ