79.解析

「な、なんじゃあこれは……?」


 《ザ・ホワイト》の亡骸が収められている八番雑素材倉庫に到着したシエラが見たものは、想定外の光景であった。


「足の踏み場がないではないか……いつのまにこんなことに」


 以前は魔物素材を中心に壁際や床のところどころが埋まっていた程度の倉庫だったはずなのだが、今やここは雑多な戦利品で溢れておりスペースが残っていなかったのである。

 その内容は、見覚えがあるものないもの入り乱れる大量の魔物素材であったり、何に使うのかわからない宝物や魔導具、かなりの力を秘めていそうな雰囲気を放つ武器防具など、様々である。


「あー……エストは何か知っておるかの」

「いえ、申し訳ありません……おそらくチクワ様かハナビ様かと思われるのですが、いついらっしゃっているのか不明なことが多く……」


 尋ねるシエラに本当に申し訳なさそうに答える倉庫街管理担当のエスト。

 彼女の責任では決してない。連絡もよこさず好き勝手にしている奴らが全て悪いのである。


「いや、何も謝る必要はない……。あやつらも、もう少し落ち着いてくれぬものかのう……」


 ひとまず倉庫の中をかき分けて、白龍の素材を回収するほかない。投げ込まれている新たな物品にも多少興味は湧くが、今のところは無視しておくことにする。

 これらを整理する時間も今後必要になってくるだろうと思うと、若干気が遠くなるというものである。


「くう……ようやっと辿り着いたか。必要なのは核だけだが……本体も有用だし、一旦回収しておくか」


 圧倒的な巨体ではあるが、すでに死亡しているためインベントリにしまうのは苦労もなく一瞬である。巨体がインベントリに収まったのを確認すると、シエラは来た道を戻った。


「ここはもう研究どころではないな。エスト、どこか専用化できる空き倉庫はあるかの」

「そういったことであれば、シエラ様専用区画として整備されている倉庫群の六番専用倉庫はいかがでしょうか」

「うむ、では案内を頼む。あと……ゆっくりでいいので、他の雑倉庫に移したりとかでこの倉庫の整理をしておいてもらえると助かる」


 シエラは多少げっそりしながら、どこにいるかもわからない二人の友人を軽く呪った。ただ、シエラの研究材料が何もしないで増え続けていることは事実なので、あまり強くは出られないのだが。




 エルムの案内で到着した六番専用倉庫。

 中は完全に空になっているが、シエラの作業用の倉庫にはあらかじめ大きな作業テーブルがあったり、魔物の解体用のツールなどが揃っているのが特徴である。

 

「さて、始めるとするか」


 シエラはインベントリを操作して、白龍の巨体を倉庫の中央で実体化する。

 少しだけ素材を切り取って研究などに利用したのだが、その割合は未だ全体の1%にも届いていない状態である。

 次いで、核を取り出して作業テーブルに乗せる。

 白く半透明な、淡く光る巨大な宝玉といった様子で、シエラがやっと抱えられる程度の大きさである。


「やはり、何度見ても不思議な物体じゃな。なんというか、現世にありながら現実感のないというか……」


 そう呟きつつ、生産職共通の素材解析の魔法を唱える。


「やはり主成分は魔力そのもの、か。あまりに圧縮率が高くて総量は見当もつかぬが……」


 魔力がこの世界に凝結したものが魔物核なわけだが、主成分が非物理的な存在たる魔力であるためか魔物核は総じて非常に軽い。

 この球体も構造としては同じようなもののはずなのだが、あまりに大量の魔力が圧縮された結果なのか非常に重量がある。


「他は……む、解析不可能な成分が複数じゃと……? わしが解析できぬ未知の成分ということか? あと最後の一つは……魂の、器?」


 素材の解析を行うシエラに飛び込んできた情報――《魂の器》。


「《魂の器》、ですか? 私は聞いたことがない素材要素ですが……シエラ様はいかがです?」

「いや、わしも全く初耳じゃな。それがどういったものかは全くわからぬが……おそらく、白龍ザ・ホワイトの魂が入っていた場所なのではなかろうか」

「魂……私は魂の存在は信じていなかったのですが、この世界ではそうもいかなさそうですね……」

「まあ、かなりファンタジーな世界のようじゃからな……。して、これは器ということだが、白龍の魂は入っておるのだろうか」


 シエラにしても魂がどういうものかは皆目検討がつかないが、ひとまず解析を続けてみようと考えて魔法を照射する。

 すると――今まで沈黙を保っていた球体が、どくんと脈を打った。


「うおう!? なんじゃ急に……!」

「なんだか……シエラ様の疑問に答えたかのようなタイミングですね」

「そ、そう思うしかない、か……。いや、結論するのは早計だが、一層丁寧に扱った方が良さそうだということはわかったな」


 一度脈を打ってからは、非常にゆっくりと核の中で魔力が巡っているのを感じる。

 眠りに入っていた生物が目覚めたかのような雰囲気である。


「こうなると素材として使うのは困難じゃよなあ、硬度が高すぎて切り分けるのも不可能なようだし。ふーむ……核……魂の器……もしや」


 考えるシエラに、ある一つの案がポッと浮かび、目を見開く。

 リサエラの知る限り、シエラがこういう急に閃いた顔をしたときは、これまでなかった発明をするか大失敗するか、半々である。


「あの……シエラ様? 何か不穏なことを考えておられませんか?」


 控えめに尋ねるリサエラに、シエラが振り向いて答える。


「くく……リサエラよ。こやつで自動人形を作るぞ!」

 

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