64.散財
「久しぶりじゃの、おぬしら」
「ああ、ヘラルドにシエラちゃんが店を持ったと聞いてね」
そう答えたのはゲラリオ。
その声にウォルグたち三人は振り返り――仰天した。
「う、うわっ! 《白の太刀》が四人揃って――シエラさん、知り合いなのか!?」
「同じ宿のよしみでな。世話になっておる」
「いや、世話になってるのはこっちのほうさ。作ってもらったこいつも手に馴染んでるしな」
そう言ってゲラリオが背中に下げた白い弓を見て言う。
「はい、私たちの武器もすごく役立ってますよ」
「そうそう、私は防具も頼みたいなあ、いいでしょリーダー?」
口々に同意するのはアカリとアケミ。アースリはといえばシエラと目があったときに少し手を上げてそれを挨拶としたようで、そそくさと離れていき術具の棚を物色している。
「それは今日相談するって言ってただろ、アケミ。……っと、今は彼らと商談中だったか。ごめんな、終わるまで店の中を見てるよ」
そう言って三人はそれぞれ興味があるジャンルの棚を見物しにいった。
「……あの《白の太刀》が使ってる武具の製作者だったのか、シエラさん……!」
「うむ、聞いての通りじゃよ」
シエラがうなずいて見せると、ウォルグたちは感嘆と尊敬と意外感の入り混じった複雑な顔になったのであった。
ひとまずウォルグたちとの取引は成立し、彼らは「よし、森の方にでも試しに行くか」などと話しながら店を後にした。
最初の客から金銭を受け取ったことにシエラは多少感慨深く思いつつ、代金をカウンターにしまったのだった。
「順調そうだな、シエラちゃん」
その様子を見つつ、ゲラリオが声をかける。
「順調といってもまだ彼らが最初の客なのだがのう。おぬしらも宣伝に協力してくれると助かるんじゃが」
「そのくらいお安い御用さ。今後もお世話になるだろうしね」
「冗談じゃよ、冗談。真に受けるでない」
シエラはあくまで冗談として言ったつもりなのだが、ゲラリオがどう受け取ったかは定かではない。
「というわけで、早速注文したいんだけど、いいかな」
「おお、それはありがたいのう。何が欲しいんじゃ?」
「そうだな……」
そう言いつつ、ゲラリオはインベントリからメモを取り出した。彼は、シエラが店を持ち正式に発注できるようになったら依頼しようと考えて内容を用意していたのだった。
「ふむふむ、なるほどなるほど……全てわしのほうで引き受けられるが、結構な数じゃが支払いは大丈夫かの」
「問題ない、これでも一応、一流パーティなんだぜ」
「おっと、そうであったな。これは失敬」
シエラが何気なく発した質問に、冗談めかして笑うゲラリオ。
ゲラリオの渡したメモには、それぞれの身に付ける防具や、アクセサリー類についてなかなかの数が記されていた。彼らに見合う性能のものをシエラが作るとなれば、その金額は並みの冒険者パーティの年収ではきかない程度の額になるだろうと思われるが、そこは流石に王都最高を謳われる冒険者たちである。
「あ、私欲しいものがあったんですよリーダー、俊敏性の上がる指輪を作ってもらいたくて」
「私も追加で、防御力に付与のかかった鎧下が欲しいなー」
ゲラリオとシエラが商談を詰めていると、アカリとアケミが左右から割り込んできてメモに勝手に記入していく。
「おいお前らなあ」
「よいぞよいぞ、どんどん言うが良い」
「シエラちゃんまでさあ……!」
双子を追い出そうとするゲラリオと、煽るシエラ。シエラは基本的に頼られることが好きな性格なのだ。その結果売り上げが上がるならこの上ないというものである。
「俺も、一つ
「ああもう、わかったわかった! 例の仕事の報酬もあるし全部買ってやるって」
ゲラリオは仲間たちの押しに負けたようで、あとは言われるままにメモに追記していったのだった。
「うむうむ、毎度あり、じゃ。そういえば、おぬしらはしばらく王都におるんかの」
「ああ、ダンジョンの調査もひと段落したところだ。あとは遠方に残ってる数カ所を確認するだけなんだが、しばらく休暇をとってから向かおうと思ってる」
「それはまた、お疲れ様じゃな」
《白の太刀》はまだ《黒鉄》と同じく国内各地のダンジョンに異常がないか調査する任務を遂行中である。シエラが渡し損ねていた封印の呪符も冒険者組合経由で無事受け取ったようで、役に立っているそうだ。
「まあそういうことであれば、そうじゃな……七日後にまた来てくれればよい」
「わかった、頼む。……それにしても、この区画に工房を設けるとは、シエラちゃんも剛気だよねえ」
「ん? ああ、二巨頭の話かや?」
しみじみつぶやいたゲラリオにシエラが問うと、ゲラリオはうんうんと頷いた。
「俺たちも前はあそこの武具を使ってたけど、それぞれ結構頑固なやつが頭でさ、縄張り意識も強いみたいだな。面倒ごとに巻き込まれないようにな」
「うむ、留意しておこう。とはいえ正当な権利で店を持っている以上、わしも引くつもりはないがな」
「そう言うだろうと思ったよ。シエラちゃん、そういうとこあるよな……。まあ、何かあったら俺たちを頼ってくれていいからな」
そう言って、彼らは店を出ていった。本当に心配してくれているのが伝わってきて、シエラとしてもありがたさを強く感じたのであった。
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