51.終結・コイラ墳墓


「ぐぁっ…………!」


 派手に吹き飛ばされたシエラは広場の端まで飛び、二回石畳の地面に打ち付けられてようやく停止した。

 攻撃を放った死神はといえば、既に爆散し魔物核を残して消滅している。

 

「シエラ……!」

「大丈夫かい!?」


 イヴとギリアイルが倒れたシエラに駆け寄って、回復魔法を掛け始める。

 ただ、よく見てみればほとんど外傷はなく、擦りむいている以外のダメージをおっている様子はない。

 

「ぐ、ぬう…………最後に油断するとは、始末が悪いな……」


 一瞬だけショックで動転していたシエラも意識を取り戻し、上体を起こしつつつぶやく。

 

「シエラ、大丈夫……?」

「ん、あぁ、すまぬな、イヴ、ギリアイル。一応これでも頑丈なほうじゃからな、擦り傷程度のものよ」


 それもギリアイルのおかげで治癒され、既に全くダメージは残っていなかった。

 実際、生産職しか取得していないとはいえレベル三百のシエラは肉体も相応に頑強である。

 そして自身の作った軽鎧も装備している以上、たとえあの場面でガード出来ていなかったとしても危険なほどのダメージは受けなかっただろうことは想像に難くない。

 とはいえそのことを知っているのはシエラのみである。

 心配してくれる二人に感謝しつつ、起き上がって前衛の二人の元へと向かった。

 

「無事だったか」

「あの程度でへばるとは思っていなかったが、流石だな」

「まあ、のう。恥ずかしいところを見せたな」


 ガレンとエディンバラから同時に声をかけられ、シエラは苦笑いを返す。

 五人集まったところで、戦利品の回収や、ダメージの回復等を済ませていく。

 

「さて、霊の呪いの武器はこのあたりにはないようだな。やはり、あるとすれば納骨堂か」


 ガレンがそう言って見やる先には、広場の奥に立っている立派な石造りの建造物がある。

 苔や蔦に覆われており相当に朽ちている様子だが、この墳墓の中でも最も重厚な造りというのは感じ取れる。

 

「納骨堂とはいうが、実際には何が収められておるのかや?」

「今は棺が一つ安置されているのみだな。元来の持ち主だったはずの遺骨は残っていないが、代わりに装備品だったり魔法の武具だったりが発生していることもある」


 なるほど、ボス戦後のボーナスタイムというわけだ、と納得するシエラ。

 アルスラ遺跡の時にも思ったが、こういうところはとことんゲーム的なのである。

 お約束すぎて、もはや疑問にも思わず納得してしまうようになってしまった。

 

 全員の処理が終わったところで隊列を組み直し、納骨堂の扉を開く。

 普段の墳墓であれば敵はもういないはずだが、現状では何が起こるかは最後までわからないので油断はできない。


 ガレンが重い扉を開くとそこには――棺に、禍々しい形状の黒い長剣が突き刺さっていた。

 

「! これは、当たりか……!」


 前回見たものとは若干形状が違う気がするが、受ける雰囲気は確実に同じものである。

 今回は死体に突き刺さっているということはないようで、特に異臭が発生したりはしていない。

 

「幸いというべきか……シエラ殿、例のものを頼めるか」

「了解じゃ」


 そう言ってシエラが取り出したのは、旅に出る前にも見せた封印呪符《絶界符》である。

 

「理論的には、一枚どこかに貼りつけるだけで良いはずじゃが……とりあえず柄に巻いてみるかの」


 ひとまず警戒しつつ剣に近づき、手にした呪符を一思いに柄に叩きつけた。

 呪符は綺麗に柄に巻き付き、固定される。

 

「さて……」


 そしてしばらく待っていると――剣から垂れ流されていた邪悪な気配が、ぴたりと収まる。

 

「シエラ殿、これは……!」

「どうやら、成功のようじゃな」


 その後しばらく観察した限りでは、剣は完全に沈黙している。

 それを確認して、一同は胸をなでおろし、その他の戦利品は回収してから納骨堂を出たのであった。

 

「よし……呪符の効果も確認できたし、あとは効果の観察だが――もう一つのダンジョンへ行って帰ってする頃には道中の魔物の発生がおさまっているはずだし、それで確認ができるはずだな」

「うむ、そうじゃな。おそらくだが……あの剣はダンジョン内の魔力の流れを乱し、暴走させるものなのではないかのう。剣が沈静化してから、ダンジョン全体の空気も一段階落ち着いたような気がする」

「確かに……俺には魔力の流れというのはつかめないが、殺気立っていた気配が小さくなったように思う。では……ダンジョン脱出だ。各員、帰り道も油断するな」


 その言葉に各々が応え、一行はコイラ墳墓を後にしたのであった。

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