39.またあいつは……


「さて、では一週空いてしまったが、週次報告会といこうか」


 シエラがそう言いつつ用意された豪奢な椅子に座り、斜め後ろに微笑のリサエラが立って控える。


「はい。ではまず、地下工房管理担当エルムより。地下工房よりは特に報告すべき点はございませんが、現在魔法銃マジックブラスターの改良案の試行を行っております。もう少し形になった段階で成果をご覧いただければと思います。眷属への適合試験についてはまだ途中になりますが、十分な命中精度を発揮できるものは現時点で被験者の一割程度になっております」

「うむ、引き続き頼む」


 魔法銃マジックブラスターまわりの改良は完全に工房班任せにしていたのだが、なかなか順調そうだ。

 適合率が最終的に全眷属の一割になると仮定すると、それでもかなりの数の眷属が魔法銃マジックブラスターを扱えるということになる。

 必要なのかどうかもわかっていない天空城の戦力増強だが、魔法銃マジックブラスターは意外と役に立っているようである。

 

「次に、資材管理担当のエストから報告させていただきます。三日前になりますが、偶然シエラ様とリサエラ様が天空城にいらっしゃらない時間に、チクワ様が倉庫区にいらっしゃいました」

「また入れ違いか……もはや狙っているのではないかと疑いたくもなる」

「上級治癒ポーションを二百本を持ち出されていきました。その際に、未知の魔物の素材を大量に倉庫に入れて行かれましたので、お時間のある際にシエラ様の検分をいただければと思います」

「……ふむ? エストでは解析できないランクの魔物かや」

「はい。種別的には竜種と甲殻種の魔物素材なのですが、私の解析スキルではどういった類のものか判別できませんでした。また、チクワ様より、『いつもどおり好きに使ってくれて構わない』と伝言を預かっております」

「伝言を残すくらいなら数日滞在していけばいいものを……まあよい。このあと解析に向かうとするよ」


 それにしても、武闘派の二人ははしゃぎすぎなのではなかろうか。

 一体どんな魔物を倒してきたのかわからないが、未知の魔物ということでシエラとしても多少興味はあるのであまり文句を言う気にもならないのではあるが……。

 倉庫区に張り紙でもしておいて一度合流を促してもいいのだが、まあ元気そうなのでいいか、ともうしばらくは放っておくことにした。

 放っておいてもそうそう死ぬような奴らではないのだ。

 

「次は防衛部かの、ゼン」

「はい。防衛部については特に報告すべき案件はございません。天空城の現在地特定についてはいましばらく掛かるかと思われます」

「うむ、それは致し方ない。引き続き慎重にやってくれ」

「ハッ」

「それでは、続いてエビテンより報告を。天空城防衛部隊ですが、先週より地下迷宮の魔物たちとの模擬戦形式での訓練を始めております」

「おお、手応えはあるかの」

「はい、部下の者たちも良い経験になると張り切っております。経験値も伸びているように思います」


 それを聞いて、シエラは驚く。

 

「経験値が……? 眷属も成長できるのかや」

「はい。まだ数値上レベルアップした者はいませんが、近いものは複数出てきています」


 ゲーム時代、眷属は拠点に配属されるNPCという存在で能力の向上が発生するものではなかったはずだ。

 この世界に来たことで彼らが成長できる存在になっているということは、多くの示唆を含む事象である。

 

「……それは興味深いな。これからも励んでくれ。……ところで、地下迷宮の者たちはよく働いてくれているのかの」

「はい、訓練にも積極的に参加していますし、戦ってみた感想等のコミュニケーションも円滑に行えております。……正直なところ、私も予想外なほどで」

「ほう……それはいいことだ。仲良くできるものは仲良くしておいて損はしないしな」


 なるほど、協力を申し出た地下迷宮の魔物たちだが、今のところは友好的な関係を築けているらしい。

 これは面白い状況だ、と思いつつうなずく。


「最後はエルマからですが――、現状、特に報告すべき事項はございません。天空城は特に問題なく運用されておりますので、ご安心くださいませ」

「うむ、ご苦労。おぬしらがしっかりしてくれておるからわしも安心していられるというものよ。――では、次はまた来週じゃな」


 そう締めて、シエラは席を立った。順調に回っているようなので、心配事はなさそうである。

 

 

 

「さて、しかし倉庫区は久しぶりじゃな」

「私は管理ついでにたまに来ておりましたが……魔物素材が増えているとは気付きませんでした」

「まあ、ここも広いからな……。エスト、案内を頼む」

「はい、かしこまりました。例の素材類は雑素材倉庫の八番に収められています」


 リサエラでも把握しきれていない倉庫区の案内を管理担当のエストに頼むと、小柄な身体にショートの金髪が可愛らしいエストが笑顔でうなずく。

 倉庫区は、城下の一角に用意された広い区画であり、数種類の倉庫が集まっている。

 食材用倉庫、ダンジョン産武具用倉庫、魔物素材用倉庫、シエラ用試作品投棄倉庫など、かなりの種類がそれぞれ複数の倉庫を持っている。

 雑素材倉庫というのは、その中でも「用途・分類がわからない物を一時的に入れておく倉庫」なのだが、その実態は「ここに投げ入れておけば、シエラシェルマスが分類しておいてくれるからとりあえずここに入れておく倉庫」と化してしまっている。

 シエラとしては身内を甘やかしすぎたか……という印象なのだが、素材類は無制限に使っていいと許可をもらっているのでこの程度は持ちつ持たれつだろう、と受け入れていたのであった。

 

 数分歩いて、八番雑素材倉庫にたどり着く。

 自分で増築しておいてなんだが、倉庫区は本当に広くもはや何がどこにあるのか把握しきれないほどである。

 

「こちらです」

「ご苦労。あとはわしとリサエラだけでも大丈夫だが、エストはどうするかの」

「後学のため、見学させてください」

「うむ、わかった。しかし、おぬしらは皆勤勉じゃのう……」


 たしかに、防衛部の者たちが経験値を積めているということなので、エストやエルムといった補助職の者たちも生産や解析といった技能の経験値を積めるのかもしれない。

 その点から言っても、見学をすることは有益なのかもしれない。

 いいことだ、と感心して頷きつつシエラは倉庫の扉を開けた。

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