18.そのできばえは
「……という感じで、どうかの」
場所は《マウンテンハイク》。
シエラは《白の太刀》の者たちに、約束の装備をわたしに来たのであった。
「すごい、すごいです、シエラさん……!!」
アカリが感激した様子で手にした槍に頬ずりをする。
大袈裟じゃろ、と思いはするものの口には出さずに、シエラはその様子を眺めていた。
アカリに渡した槍は、柄まで全て金属で制作した重い白色の金属槍である。
素材は鉄鋼や緑鉄を含む、あの日の探索で採掘されたものの合金で構成されている。
精錬時から鍛造の段階まで全てにおいて錬金術で高品質の金属質へ遷移させていったので、素材自体は同じでもかなりの品質のものに仕上がっている。
もちろん、鍛冶魔術による付与も素材の許す上限まで叩き込んでいる。
「基本的に付与は耐久度と速度上昇に振ってある。修復はおそらくわしにしかできぬだろうからな、頻繁に来んでも良いように弱めの自動修復も付けてある。多少の傷や汚れは放っておけば元に戻る。まあこのランクの素材ならこの程度が限界じゃろうな」
アカリはそれを聞いて口をぽかんと開けた。
「自動、修復……? そんな付与、聞いたことない……」
「……ん? そんなに珍しくもないはずじゃが……」
シエラとしては、やりすぎない、を一応心がけていたのだが……。
自動修復についても、低ランクの効果であれば鍛冶師技能の初心者を脱するかというあたりで習得する技能だ。
この世界の鍛冶屋が同じように技能を習得していくのかは知らないが、シエラの感覚ではあまり高等な技能ではない。
「いや、聞いたことがあるな」
反応したのは受け取った弓を検分していたゲラリオだ。
ゲラリオの弓も素材はアカリのものと同じで、貫通力に特化した付与と自動修復が付与されている。
「主に東のほう、オルジアク近辺で活躍している戦士たちがそういった付与をされた武具を使っていると聞いたことがある。他にも遺跡から発見された宝物級の武具にも自動的に修復するものが多いらしい」
「そうなんですね。リーダー、さすがに博識です」
「いや、興味本位さ。どっちも伝聞でしかないしな」
「……まあ、そういうわけじゃよ。全て攻撃能力に振ってしまうより、ある程度便利なほうが使い勝手が良い」
「――ありがとうございます、シエラさん! 大事にします!」
「いや、まあ武器は使われたほうが喜ぶと思うのでな、せいぜい使ってやってくれ」
「はい! アケミ、早速外で試してみましょう!」
アカリが新品の盾を抱えていたアケミに呼びかける。
「うん、行こっか! シエラちゃん、本当にありがとね!」
そのまま、彼女たちは走り去っていった。
まったく元気な娘たちだ、とシエラはなんとなく老けた気分になってため息をつく。
「あいつらは忙しないな……俺らも様子を見に行くか、アースリ」
「……ああ」
そう言って立ち上がってから、ゲラリオはシエラに向き直る。
「……正直、シエラちゃんの腕がここまでのものだとは思ってなかったよ」
「そうかね。まあ満足してもらえたようで何よりじゃな」
「これほどの装備はあの探索護衛程度の報酬じゃ全然買えないよ。俺たちでよければいつでも仕事を手伝わせてくれよ、護衛でも買い出しでもなんでもやるからさ」
ゲラリオの顔は、至って真剣であった。普段の軽薄そうな様子とは全く雰囲気が異なる。
「ああ、そういうことならまた世話になるとするかな」
シエラは別に借りに思う必要などないとは思ったが、それが彼らの誠意ということならばありがたく受け取っておくとしよう。
また別のところへ案内してもらうのもいいだろう、と気楽に思うことにした。
「……世話になったな」
言葉少なに言うアースリの左耳には宝石の埋まったイヤリングが付けられていた。
アースリからは別に何も要らないとは言われていたのだが、報酬はやはり4人分あったほうがいいだろうと考えたシエラが作ってきたものだ。
効果は、軽装の魔術師に不足しがちな物理防御力と魔法防御力を補助するもの。
余計なお世話かもしれないかと思ったが、一応使ってもらえるようでなによりである。
「うむ、よいよい。おぬしらもはやく双子姉妹を追ってやれ」
いい加減に照れくさくなったシエラは手をひらひらと振って彼らを払うように店から追い出したのであった。
「喜んでもらってよかったね」
カウンターの向こうからそう声をかけてきたのは店主ヘラルド。先ほどから、彼らのやりとりを微笑ましく見守っていたのであった。
「ああ、そうじゃな。わしの技も捨てたものではないな」
「そういえば、公営ギルドに登録するのかい? シエラちゃんなら錬金術ギルドか鍛冶組合かな」
「その話もあったのう、確かに……。わしの技術はどちらも併用するものが多いしどちらに登録したものかな」
「それならどっちも登録するのが無難かな。そうすれば何を売っても文句は言われないよ」
「なるほど、了解した。まだ昼前じゃな、今日中に済ませてしまうとするか」
よっ、とカウンターの椅子から飛び降りるシエラ。
「いってらっしゃい」
「うむ、行ってくる」
こうしてシエラの新たな一日が始まったのであった。
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