第25話
「ウェルカ様、セイット様が迎えに来られています」
ため息でもつきそうな顔でベスが伝えてくる。うん、わかります、私もため息をつきたくなります。
「ふふっ。
仲がいいのね」
「お姉様、受け入れないでください」
今日は商業区に行くためにいつもよりも早く起きて、たまたま時間が合ったお姉様と朝食を食べれていたのに……。
「まあ、いいじゃない?
行ってらっしゃい。
楽しんできてね」
「はい、ありがとうございます」
丁度朝食を食べ終わったタイミングだったこともあり、セイットにすぐに行くと伝言を頼んで準備を整えに部屋へと向かった。
「お待たせいたしました」
「いえ、こちらこそここまで来てしまってすみません。
ウェルカとデートできるかと思ったら嬉しくて」
「で、デート⁉」
確かにセイットと買い出しに行くのだが、イルナもいるしそんなこと考えていなかったのに。急に……。
「行きましょう?」
こちらの動揺などお構いなしにセイットは馬車へと向かいだしてしまった。迎えに来たと言って置いていかないでくれないかな?
「本日護衛を務めさせていただくものです。
よろしくお願いいたします」
馬車の前で待っていた騎士2人が私たちの姿を認めると、すっと礼と挨拶をしてくれる。挨拶を返してさっそく私たちは馬車に乗り込んだ。
「そう言えば、制服は屋敷では作られないのですね。
こちらに来て用意していただいた服は屋敷まで仕立て屋が来てくれたのですが」
そう言えば、私もドレスを作るときは屋敷まで創る人が来てくれていた。でも、今回はお店に行って仕立てるのだ。
「学園の制服を作れる服屋があまり多くなく、この時期はどうしても屋敷を回れるほどの時間はないようです」
そうなのね。今までどうして店まで行かなくてはいけないのか考えていなかったけどそんな理由があったのね。
「初めに制服を仕立ててしまいましょう。
その後途中昼食をはさみながら必要なものを見ていきます」
「わかったわ」
馬車が商業区について降りると、すぐに騎士の方が前後についてくれる。イルナと侍従は後ろに控えているし、セイットは隣についてくれる。私は馬車から降りただけだけど、いつの間にか陣営が完成している、すごい。
なかなか多い人の中、この人数と騎士がいることで目立っているようでちらちらと通り過ぎる人が見てきています。は、恥ずかしい……。
なんでほかの皆は平然と歩いているんだろう。早くお店についてほしい。そんな願いが通じたのか、お店にはすぐにつくことができた。
「ようこそいらっしゃいました。
お嬢様はこちら、お坊ちゃまはこちらへどうぞ」
キリキリとした女性店員が出迎えてくれたと思ったら、すぐにセイットと左右に分かれとある部屋に連れていかれた。大きな鏡が置かれている。
「初めにこちらを来てください。
針も使いますので、なるべく動かないようにお願いいたします」
それだけ言うとすぐに手に持っていた制服を着せられる。このお店は以前も利用したことがあるから事前にある程度服の調整をしているのかな?
「うーん、もう少し詰める?」
「でもウェルカ様は成長期ですし、少し大きくてもいいんじゃないかしら?」
「そうね、この長さでもバランスが取れているし、いいんじゃないかしら?」
「そうね、じゃあ後は少しここを調整してっと」
制服を着せられて、まじまじと見られています。軽くダボっとしているところにまち針を刺したり、スカートの丈を見たりしている。なんだか恥ずかしい……。
「はい、これで大丈夫です。
それではこちらの方で少々お待ちください」
確認が終わったかと思うと、お茶などがいつの間にか用意されている席の方を勧めてすぐにいなくなってしまった。い、忙しそう。
「ウェルカ様、お疲れ様です。
どうぞこちらを」
「ありがとう、イルナ。
それにしてもすごいわね……」
「彼女らも毎年この怒涛の時期を乗り切っているようですし、慣れてはいるのかもしれませんね」
「お待たせいたしました。
次はこちらの方をお召しになってください」
もう⁉ 本当に一瞬だった。女性の手には別の服があるし。
***
あれよあれよと服を整えられていき、最後の方はぼーっとしているだけで終わってくれました。店員の迫力がすごかったですね、はい。
「お疲れさまでした。
こちら制服になります」
「ありがとうございます」
セイットはすでに終わっていたようで私の制服を受け取ると、すぐにお店を後にした。本当に忙しいようで、お店の方々はすぐに別のお客さんの対応に追われていた。
「さて、どこに行きましょうか」
「まずは文具をそろえてしまいませんか?」
「では、行きましょうか」
一つ一つ、必要なものを確認しながらお店を巡っていく。こうやって自分で歩きながらお買い物をするのが初めてだったけれど、とても楽しい!
多くのものから一番気に入ったものを探し出すのがこんなにも楽しいなんで思わなかった。
「ウェルカ、君はとても楽しそうですね……。
僕はもう疲れてしまいました」
ようやくすべての買い物が終わったころセイットはぼそりと愚痴をこぼす。私は楽しかったけれど、セイットはそうではなかったみたい。ちょっと申し訳なかったかも。
「そろそろ帰りましょうか?」
ええ、と全力でうなずかれてしまったのでおとなしく馬車へと戻ることにした。ずっと護衛に騎士様たちがいてくれたけれど、何も起きずに済んでよかった。今、というか今後ももうあの方たちには2度と会いたくない。
「ウェルカ?
怖い顔をしてどうしたのですか?」
「いえ、なんでもありません。
帰りましょう!」
今が幸せだ。今日、初めて外で買い物ができたことがとても楽しかった。それがどれほどの贅沢なのか、あの方たちを思い出すたびに実感してしまうな。
そうして馬車に乗り込もうとした、その時だった。女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。
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