第24話
「ウェルカ様、夕飯までお茶会の準備をいたしましょう。
新調したばかりですので大丈夫かとは思いますが、今は成長期ですからね。
丈が足りなくなる場合もございますので」
お茶会……。イルナの言葉で嫌なことを思い出した。そう同年代の子が集まるお茶会がもうすぐあるのだ。
まだ社交の場に出ない私たちにとってはこれが初めて他家の同年代の子と会う場になる。親同士が仲がいい場合はその前にお互いの家を行き来することはあるみたいだけど、私はそんな人はいない。そう、どんな子たちが来るのか全く分からないのだ。
「それ、行かなきゃダメかしら」
「もちろんです」
すぐにきっぱりと返されてしまうと、さあ行きますよ、と背を押されてしまう。とても動けるようになって成長したイルナだけれど、こういった行動力も成長してしまったのね。
「当日、天気が良いようでしたらこちらの風通しの良いドレスを着て、悪いようでしたらこちらの少々生地が厚くなっているドレスを着ましょう」
淡い紫のドレスと黄色のドレスを前に出すとイルナが紹介していく。たしかにどちらとも最近仕立ててもらった覚えがある。
さあ、来てみてください! というとさっそく今のものを脱がせにかかり、紫のドレスを着せられていた。素早い……。
「丈は大丈夫そうですね。
アクセサリーは何を合わせましょうか」
「そうね、せっかくだからセイットにいただいた髪飾りを使おうかしら。
それだと後はこれとこれかしら」
「とても良いと思います。
手入れをしておきますね」
ワルクゥベ様に教えていただいたことも思い出しながらさっと選ぶとイルナは満足そうにうなずいていた。気に入ってくれたようで何よりです。
黄色のドレスの方も調整はいらなかったようで、早々に開放してもらえて助かりました……。
夕食後、約束通り伯父様の執務室を尋ねるとすぐに扉を開けてもらえた。実はここの部屋に入るのは初めてで少し緊張してしまう。
「よく来たな。
さて、結果はどうだった?」
言葉で説明するよりもわかりやすいだろうと紙を渡すと、伯父様は受け取ってじっくりと読み始めた。なんとなく、居心地が悪い。
「そうか、そうなったか。
おめでとう、ウェルカ。
伯父としても、養父としても誇らしく思うよ。
これは本当にすごいな……」
しみじみとつぶやかれてしまった。でも、誇らしく思うと、そういってもらえたのはいつぶりだろう。記憶の奥の奥。お母様が私の頭をなでながら言ってくれた気がする。
もう聞けないと思っていたその言葉に胸がジーンとなる。
「ありがとうございます」
「すぐに制服を買いに行かねばな。
セイットも必要になるそうだからともに行くといい。
ほかにも必要なものはその時に揃えなさい」
「商業区に行けるのですか?」
「ああ。
そんなに嬉しいのか?」
「行きは通り過ぎるだけでしたので、一度行ってみたかったのです」
王都に来た時、今日はと言われたから後日行けると思っていたんだけど、結局行けてないままなのだ。やっぱり一度行ってみたい。
「楽しむのはいいことだが、気をつけるんだぞ。
もう社交界シーズンが始まっているからな。
バーセリク家のものも4人揃ってこちらに来ている」
バーセリク。今まで考えないようにしていたけれどお父様方は怒っているのだろうか。
「大丈夫か、ウェルカ?」
「あの、あの方たちは何か言っていますか?」
「いや、会っていないからわからない。
何かわめいているようではあったが、気にする必要はない。
もうウェルカもアゼリアも正式に私の娘なのだからな」
伯父様が席を立ったかと思うと目の前に立つ。すると頭に手を乗せて少し乱暴になでて、くれている……?
「えっ?」
「っ!
すまない、つい」
すぐにぱっと手をどけてしまった。その顔は少し赤くなっている。
「いいえ、とても嬉しかったです」
「そ、そうか。
商業区に行くときは護衛をつけるからな、安心しろ」
「ありがとうございます」
おやすみ、と言って送りだしてくれた伯父様におやすみなさいと返して別宅に戻った。
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