姉に代わって立派に息子を育てます!
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第1話
「アゼリア、お前には今から王都行ってもらう。
ベルク殿下がお前をお望みだ」
冷たくそう言い放つ父だったが、その顔はどこか嬉しそうだ。その理由はお姉様もなぜか一緒に呼ばれた私にもわかりきっている。
「そうですか。
謹んでお受けいたしますわ」
そんな父に応戦するようにお姉様も硬い声で返事を返す。父は少しむっとしたがこの際気にしてはいられないのだろう。我が家と王家との繋がりを持てるのならばこのくらいは我慢してやろうということだろうか。しかも相手はベルク王太子殿下である。これは父にとってなんとしてでもモノにしなければいけない話であった。
「そこで、だ。
ウェルカ、お前もアゼリアについて行ってもらう。
先方にはすでに了承していただいているが、アゼリアの侍女としてお前をよこす」
そうして話は以上だ、と切り上げた父に私もお姉様も開いた口がふさがらない。今この人はなんといった? 私も王都についていく、それはいい。だが、お姉様の侍女として? ふざけるのもたいがいにしてもらいたいものだ。
「お父様?
一体何をおっしゃっていますの。
ウェルカはこのバーセリク侯爵家の第二息女です。
それなのに、私の侍女として王都へ?
このようなお話、冗談でもたちが悪いですわ」
衝撃的なことに何も言えないでいる私に代わって、お姉様が言いたいことを言ってくださった。心の中でお姉様に感謝をしつつ、父の方を見るとあからさまに不機嫌な様子を醸し出していた。
「私に口答えをするな。
出ていけ」
ああこれは話を聞く気が一切ないという態度。これ以上は話しても無駄だという意思表示のためにお姉様のドレスを軽く引っ張ると、お姉様は大げさにため息をついた。
「失礼致しました」
「失礼いたしました」
これはそうとう怒っていらっしゃいますね。でも私もこれでも怒って、というよりも怒りを通り越して呆れています。あれがわが父だなんて認めたくないくらいには。
「ウェルカ、私の部屋で少々お話をしない?」
「喜んで、お姉様」
ため息をつきそうなお姉様は、それをこらえて笑顔でそう誘ってくる。それを断る理由は特になかった。
私はウェルカ・ティー・バーセリク。ここタリベアン王国において侯爵位を賜っているバーセリク家の次女だ。私の家族は現在お父様とお姉様。お母様は私が5歳のときに病気で亡くなってしまった。おっとりとした優しい方で本当に大好きだったため、お母様が亡くなった時は何日も泣き続けたのを覚えている。それが今から約4年前のことだ。
先ほどは私の家族の話をしたが、バーセリク家の構成としては少々異なる。当主である父、母亡き後すぐに後妻となった子爵家の愛人の娘であった義母、そして彼女の連れ子(父の本当の子と思われる)の義妹、再婚後にできた嫡男である義弟、この6人でできている。よくある話ではあるが、義母は前妻の子である母によく似た私たちが気に入らないようで義妹と共に陰湿ないじめにあっていた。まあ、ろくにご飯を上げないとか、十分な服を与えない、そういった類のものであったが。
ちなみに父は本当に当てにならない、というよりも誰よりも毒婦である義母に夢中であった。誰が見ても浮気をしていたとわかる義妹を見た王族に連なる公爵家である母の実家はすぐに我が家との縁を切ったため、そちらもあてにはならない。父を見るのも嫌なのか、私たちのことは見もせずに切ってきたことは正直残念だった。
さて、長々と説明してきたわけだが今の状態はそこまで悪いわけではない。私たちはともに宝石やドレスにそこまでの興味はなかったし、食事もお母様の生前、または公爵家にいたときより務めている方がこっそりと持ってきてくださるから。
「ウェルカ、何か飲みたいものはある?
最近ベスに頼んで隣国の茶葉をいくつか取り寄せたのよ」
少し声を潜めてお姉様が言う。その言葉に私は目を輝かせた。新しい茶葉なんて最近飲めていない。お部屋で選んでもいいですか? と聞くとお姉様は優しくうなずいた。お父様からの衝撃的な発言からお姉様のおかげでだいぶ回復したころで嫌な奴の姿が目に入った。
「あらぁ、アゼリア姉さまとウェルカ姉さまじゃない」
ねっとりとした言い方。いっそ悪趣味なほど飾り立てられたドレス。義妹のアンティーナだ。いつも通り義母譲りの癖の強い茶髪、父譲りの若葉色の瞳。この目が吊り上がっていなければ気の強そうな印象はやわらげたかもしれないが、性格がこうであれば仕方がない。そんな風に現実逃避をしているがこの義妹は目の前からどきそうない。
「アンティーナ、何か用事でも?」
「ああ、アゼリア姉さまご婚約おめでとうございます。
せいぜい我が家の恥とならないでくださいね。
それにしても……。
フフッ、アハハ!
ウェルカ姉さまがアゼリア姉さまの侍女なんて」
心底おかしいというように笑うアンティーナに私もお姉様も思わずいぶかし気な目をそちらに向ける。幸運なことに我が義妹はそれに気が付いていないようだ。
「もう姉さま、なんて呼ばなくていいかしら」
そうして笑ったまま横をとおりすぎていった。アンティーナ付きの侍女は申し訳なさそうな顔をしつつ通り過ぎていく。こんなことを思うべきではないが、後から入ってきた身、しかも母の立場もしっかりしたものとはいいにくい義妹にバカにされる筋合いなどないのだが?
「行きましょう、ウェルカ」
深いため息をついた後にお姉様はそう言った。
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