死して革命
ザ・ハンド
第1話 プロローグ
その少女のサファイアのような青い目。
澄んだ色はこの世の何と比べようと美しく、それでおいて深海のように底の見えない不思議めいた魅力を合わせ持っている。
だがその目の奥には彼女の静けさと美しさを象徴するような目とは不釣り合いにも程がある荒々しさと美しい青を濁すようなどす黒い赤の飛び交う凄惨な光景が映し出されていた。
「塵となってまた材料からやり直して来なさいな。失敗作さん、フフフッ」
ぐるぐる巻のツインテールの女は豪奢な扇子をパタパタと扇ぎ、涼しげにこちらを嘲笑している。
扇子を広げているのに隠そうともしない口角の釣り上がり様は頬が裂けそうな程だ。
「痛みなんかもう感じないし…大概の事じゃ死なないから…もう恐怖なんて克服したと思っていたけれど…やっぱり…女ってのは怖いなぁ…」
セイトの鉄鎧と胴をいとも容易く突き破り壁へ突き刺さった鉄杭は体をよじろうとちょっとやそっとではびくともしない。
「セイト!!大丈夫!?大丈夫なわけないよね…。ごめんなさい…ごめんなさい…今すぐこれ引き抜くから!」
今の今まで呆気に取られていたスフィーが半泣きで駆け寄って来た。
だがサファイアのような美しい目と髪、端正な顔立ちのその少女はイメージ通りに非力であり、鉄杭は変わらずギラギラとした金属光沢を見せたまま、少女が触れようと触れなかろうと動き一つすら見せずセイトの腹に突き立っている。
スフィーは申し訳なさからか遂に杭に手をかけたままボロボロと涙をこぼし始める。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「いいよ、スフィー、こんなことで泣かないでくれ。せっかくのその大きな目が腫れてしまうよ。それに…」
セイトは右手をチョップの形で構え、力を込めると甲冑の右手が赤く発光し始める。
勢いよくチョップを杭と腹との境目へ振り下ろすと丸太のように太かった鉄杭はいとも容易くぶった切られ、荒く切られた時の不格好な断面を晒していた。
丸みがあり、綺麗だった甲冑の右手は高熱と衝撃に耐えられるはずもなくセイトの肌を覗かせる程ボロボロに砕けてしまっている。
「俺は…そんなにヤワに作られていないから」
そのまま歩いて杭を抜くと風穴の空いていた腹部がみるみるうちに再生していった。
「ほら…ね…」
穴は血色のいい血肉に埋め尽くされていき、あっという間に元に戻ってしまった。
スフィーは先程とは違う意味の涙を流しながら思いきりセイトに飛びついてきた。
「セイト!あぁ…よかった…私のせいでまた人が死んじゃうかと思った…よかった…」
「だから…そんなに泣くなよ…なんとも…なかったんだからさ…」
二人の間には映画でよくあるようなお涙頂戴とばかりの感動シーンが流れていたが惜しくも一人だけの観客はそれが好ましくなかったようだ。
バキリと何かをへし折る音が響いた。
見るとそれは先程までこちらを嘲り笑っていたツインテール女の扇子だった。
破片を握る腕はプルプルと震え、見せつけていた三日月の向きを変えて貼り付けたような目と口は見る影もなく、こちらを睨みつける虚ろな目、垂れ下がった口角に、白い歯を軋ませている。
今にも飛びかかって首に噛み付いて来そうな気迫だ。
「そんなに…死にてぇんだな?」
女は明らかに口調が変わり、扇子の破片をブン投げて両手を頭上へ掲げる。
すると空を見えなくするほど大量の巨大な鉄杭が自分達の頭上へ出現する。
「いや、お前が…特別怖い女なだけかもなぁ…」
セイトは全身を赤く発光させる。
「さぁ…こいよ…さっさと終わりにしよう」
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