消えたべテルギウスの愛 - 遮光の殺意 -
zizi
第1話 プロローグ
西暦205×年・4月――。
自宅の駐車場を出てしばらくすると、車が何かに反応したらしく、
首を傾けて前方に目を凝らすと、センターライン近くに一匹の犬が横たわっているのが見えた。車に跳ねられたのであろう、頭部が二メートルほど離れた場所に転がっている。頭部のない胴体はまるで丸めた毛布ようだった。
おそらく電子頭脳の回路に狂いが生じて車道に跳び出したに違いない。よく見かける光景だ。いくら車体に自動制動装置が装着されているといっても、暴走に近いような急激な行動にはとても対処することはできない。
轢断された首からは神経の代わりとなる無数の配線コードと筋肉代わりのワイヤー、それに骨格の中枢をつかさどる金属のチタンが剥き出しになっていた。いくらアニマロイド(人造動物)とわかっていても、普段目に触れることのないものがこういった凄惨な事故であからさまに見せつけられるのはあまり気分のいいものではない。
――やがて車は脇道から幹線の
中央の走行車線、左側の進路変更および緊急停止車線、そして右側の緊急車専用車線の三車線からなっている。ここではいっさい追い越すことはできない。そのお蔭で無謀な運転による事故というものが皆無といってもいいくらい消滅した。
主要道路のはもうひとつ特徴があって、それぞれの車輛が自動間隔保持装置のせいで一定の間隔を保持して規則正しい走行をするというシステムである。このシステムが整備されたことによって、犯罪者が車で逃走するということは事実上不可能になった。
この日、土曜日の午後ということもあって、営業車よりもマイカーの数が目につく。ウィークディは条例で都心へのマイカーの乗り入れが規制されているために、土・日もしくは国民休日の日になると、競うように都心の目的地に急ぐ車が目立った。
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