厄災オレンジワイズ
雨男
序章 ストップウォッチは必要ない
「次、走るぞぉー! 位置について・・・・・・」
茹だるような夏の昼過ぎだった。公立幸禮高等学校のグラウンドでは、1年生男子が体育の授業で賑わっている。
今日は体力テストの日で、50m走が行われていた。
「ピィッ!」
体育教師のホイッスルが鳴る。横一列に並んだ5人の男子高校生たちが一斉に走り出した。
「な、なんだアイツ!」
「はえぇー!陸上部か!?」
群を抜いて先頭を往く男は、明らかに高校生離れしたスピードでゴールの白線を強く踏み、風のように通過した。
「5秒68」
「「「すげー!!!!」」」
男子高校生の50mの平均が全学年7秒台であることからその速さが分かる。
ゴールから50mも離れているのに、体育教師も興奮していたのが目に映った。
超高校級のタイムを叩き出したのがしかも、部活動をしていない生徒だったのが更に場を盛り上げた。
「すごいなお前!陸上部に入れよ!」
「いや、ここは、サッカー部に!」
体育教師も凄い勢いで走って近づいてくる。その盛り上がりから少し離れた場所で、気分が悪そうに息を切らした男子高校生がいた。
その、男子高校生は、さっきの記録を計った測定係の男だった。
短髪の陽気な男子高校生が、その測定係の男に話しかけてくる。
「すごい記録だったよな!あれで帰宅部だなんて」
「ああ。すげーな。羨ましいぜ。」
測定係はか細く辛そうに返事した。
「俺、野球部なんだよね。まだこの高校にも入って間もないし皆のこと良くわからねーけど、いきなり目立つやつが現れたってー感じ?野球部に入ってくんねーかなぁ・・・・・・ってあれ?お前、大丈夫?気分悪そうだな。」
「悪い。その通りだ。少し気分が良くねーんだ。保健室行ってくる。先生に伝言頼めるか?」
「おう。いいけど・・・・・・」
保健室へ踵を返す測定係に、慌てて確認する。
「あっ!お前、名前なんてーの?!まだ皆の名前と顔ちゃんと覚えてないんだ! 悪ィ!」
「橙」
「え?」
力の抜けたへらっとした表情と声で、この物語の主人公は名乗った。
「
橙は、そのまま保健室へ向かう。
野球部の少年は、その背中を見ながら呟いた。
「だいだいって、変な名前。・・・・・・そういやアイツ、タイムの測定係だったよな?」
計測してるときも、終わったときも手にストップウォッチも何も持っていなかったような・・・・・・まぁ、気のせいか。
真夏の炎天下の勢いは増す一方だった。
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