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「朝っぱらから何騒いでんですか陛下。」


 吹き飛ばされた扉の向こうからくはぁと欠伸をしながらキャロルが部屋に入ってくる。


 腕には黒髪の幼児が抱かれスヤスヤと寝息を立てていた。


 キャロルは寝惚けた顔をしたまま荒れ果てた部屋を見渡し首を傾げる。


「何ですかこの部屋。

 朝っぱらから親子喧嘩ですか?

 元気そうで何よりですね。」


「違うから。

 キャロルもそこに正座して。」


 ルシウスに脅され首を傾げながらシェリルの横にキャロルも座る。


 お互いに何やらかしたんだ?と目配せし合い首を捻っている。


「…キャロル。

 シェリルに余計な事を教えない様にって散々私言ったよね?」


「余計な事…?」


 ルシウスの言葉にキャロルはうーん?と唸る。


 何か余計な事を教えた記憶がない。


「…『人生において必要なコマンドはがんがん行こうぜだけ』とか。」


「あーはいはい。」


「『容赦なく殺るのは陛下だけ』とか。」


 その言葉にキャロルはあれ?と首を傾げた。


「えっ違いますよ。

 私が教えたのは『陛下を殺るなら容赦するな躊躇うな』です。」


「あっ間違えて覚えてましたね。

 覚え直しておきます母様。」


「覚えなくて良いから。

 ほんと何で私の説教は聞かないのにキャロルの言葉は覚えるのさ。」


「母様の言葉は何故か感銘を受けてしまうんですよね。

 不思議です。」


「不思議ですねえ。」


「やめなさい。

 サイコパス同士で共鳴はやめなさい。

 今すぐ危険な共鳴はやめなさい。」


 ルシウスは深い溜め息をついた。


 キャロルの躾が進んだと思ったら新たに躾ける危険生物が増えてしまった。


 しかも今度は地位と権力と財力と見た目を併せ持ったシェリルが相手である。


 今度こそヤバい。


 躾ねば人類がヤバい。


 躾ねば今度こそ王国の危機だ。


 ルシウスはしゃがみ込み苦笑を浮かべた。






 いいよ、もう。


 何回でも躾直せばいいじゃないか。


 何回でも何十年でも躾直せばいい。






 急に黙り込んだルシウスに2人はどうした?どうした?と目線を送る。


 ルシウスは2人の頭をぽんぽんと撫でた。


「…まあいいよ。

 ゆっくり躾けるしかないかな。」


 失礼なっと2人がむくれるがルシウスはキャロルが抱く黒髪の幼児の頬に指を伸ばす。



 悪癖を持った自分の使命だと思えばいい。


 こんな毎日も嫌いじゃないのだから。






「…さっ説教の続きをしようか。」


「ひぇっ。」


「げっ。」



 今日もマリアヌ国の王宮にはルシウスの説教が響いているという。

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