326

 理由に辿り着きルシウスはガリガリと頭を掻きむしった。


 突然奇行に走り出したルシウスにキャロルが若干たじろぐ。


「でっ殿下?」


「…好きだよ。」


「えっ?

 あぁ、はい。

 今回は1本しか買ってないんで今度多めに買って来ますね。」


「えっ?」


「いやだから串焼き。」


「…あっうん。

 ありがとう。」


 こいつ何か怖いとジリジリとキャロルが後退る。


 そんなキャロルの手を思わずルシウスが掴んだ。


「なっ何ですか?」


「…あっいやえっと。」


 自分でも何故掴んでしまったのか分からない。


 ルシウスは慌てて言葉を探した。


「頬に肉汁ついてたから。」


「えっまじですか?

 ありがとうございます。」


 キャロルはルシウスの手を解き頬をぐしぐしと擦る。


 そんな2人にリアムに串焼きを渡したレオンが声をかけた。


「キャロルー。

 そろそろ戻ろうぜー。

 今夜の枕投げ大会のルール決めなきゃだろ?」


「あっはいそうですね。

 殿下、リアム様失礼します。」


 キャロルがペコりと頭を下げてパタパタと執務室から飛び出して行く。


 また執務室が静けさを取り戻した。


「…殿下そんなに串焼き好きでしたっけ?」


「…さあね。」


 何か言いたげなリアムにルシウスは素っ気なく返す。


 ルシウスはまたペンを走らせながら考える。


 あの時自分はキャロルが婚約者だったらと願ってしまった。


 キャロルに隣にいて欲しいと願ってしまった。


 この感情が何なのか分からない程鈍感なつもりは無い。


 だが既に婚約者候補のお披露目をしてしまった後だ。


 今更どうにかなる様な話ではない。


「…あーもう!!!!」


「殿下?!」


「あぁごめん。

 何でもない。」


「…レオンに提案された通り後日キャロル嬢を呼び出したら良かったですね。」


「…今更でしょそんな事。」


 ルシウスはぼんやりと窓の外に視線をやった。


 中庭を走り抜けていく赤髪と黒髪が視界を横切る。


 その隣に自分も並びたいと思ってしまいやけに胸が傷んだ。


 ルシウスは胸の痛みに蓋をする様に視線を書類に戻しペンを再び手に取ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る