325

 中々に衝撃的な事件を起こしたキャロルだったが元々仕事はするタイプだったらしくレオンも気に入っているのが見て取れた。


 実際キャロルと連む様になってから余り執務室にも戻って来ない。


「あれ?

 リアム、レオンはどこ?」


「恐らくキャロル嬢の所でしょう。

 何やら『えあーこんでぃしょなー』なる物があるとかでキャロル嬢の住居に入り浸っている様です。」


「…ふーん。」


 つまらなそうに呟いてルシウスはまたペンを動かした。


「あっあと来週から2週間程休暇が欲しいと言ってましたよ。」


「休暇?」


「えぇ。

 何やら2人で冒険に行くんだとはしゃいでましたが。」


「…ふーん。

 まっいいよ。

 許可しといて。」


「はっ畏まりました。」


 また静かにペンを走らせる。


 つまらない。


 ただ何がつまらないのか自分でも分からない。


 ぼんやりと考えながらただただペンを走らせていると執務室の扉が音を立てて開かれた。


「あっ殿下とリアムお疲れー!!!」


「お疲れ様です。」


 レオンがニコニコと機嫌良さそうに部屋に入ってくる。


 その後ろには口をもぐもぐと動かしているキャロルも一緒だ。


 リアムがはぁっと溜め息をつく。


「レオン、ノックはしろって言っただろ。」


「あっやべ。

 キャロルの部屋の感覚になってたわ。」


「私の部屋もノックして下さい。」


「いやだってずっと居るから何か俺の部屋みたいな気分になっててさあ。」


「どこの暴君ですかあんた。」


「…お前達ほんと仲良いな。」


「おう!

 俺はキャロルの友達第一号だからな!」


「…まっ友達にはしてやりました。」


 素っ気なく答えるキャロルの耳が少しだけ赤い。


 友達という単語に照れているらしい。


 それが何だかとても腹立たしくてルシウスは小さく舌打ちをした。


「あっ殿下、これお土産です。」


「お土産?」


「串焼きです。

 美味しかったですよ。」


「…ありがとう。」


 キャロルに差し出された袋を受け取ると中からふんわりと良い匂いが漂ってくる。


 何となく今までの苛立ちが少しだけ和らぐ気がした。


「…そんなに好きなんですか?」


「えっ?」


「串焼きをそんなに幸せそうに見る人初めて見たんで。」


 そう指摘されてルシウスは慌てて自分の頬を抑えた。


 串焼きは嫌いではないが特別好きなわけではない。


 なのに心の底から嬉しいという感情が溢れてしまう理由は。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る