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 キャロルは頭を下げる。


「お久しぶりでございます、ルシウス王太子殿下。」


 二拍程遅れて聞こえたのはあの頃より低くだがあの頃と同じ様に優しい声。





「うん。

 久しぶりだねキャロル。」





 その言葉にキャロルはゆっくりと顔を上げる。


 柔らかな白金色の髪。


 深海に刺す光の様な藍色の虹彩混じりの目。


 あの頃より鋭利になった頬。


 天使と呼ばれていたが今は神々しいと言う言葉が似合うであろう美貌。


 相変わらず綺麗な顔のまま成長したなと心の片隅で思う。


 育成失敗とはならなかったらしい。


「まぁ、座ってよ。

 積もる話もあるしね?」


 ルシウスの言葉に魔王の片鱗を感じたが無視すべきだろう。


 触れてはいけないと言うセンサーは今でも衰えていない。


 キャロルは指された椅子に腰掛ける。


 紅茶を置いたメイドが部屋を出て行った。


 まさかの置いて行かれる流れらしい。


 ルシウスはテーブルに置かれた羊皮紙を眺めくすりと笑った。


「前回は名前と年齢だけ。

 今回は釣り書自体未提出。

 やるねキャロル。」


「申し訳ありません。

 拉致されながら釣り書を書いた事がなかったので思い至りませんでした。」


「それは申し訳なかったね。

 普通に呼び出しても来てくれないと分かっていたから。」


 クスクスとルシウスが笑う。


 笑った顔はあの頃のままだ。


 なんとなく強ばっていた体の力が抜ける。


 昔はこうして毎日の様に喋っていたのだ。




「…殿下が本当に生きている姿が見られて良かったです。」


 ポツリと呟いたキャロルにルシウスが苦笑する。


「それは私もだよ。

 目が覚めたらキャロルは魔力を失ったまま王宮から出て行ったって聞かされて。

 レオンは居場所を知っているみたいではあったから少しは安心出来たけど、そうじゃなきゃ立場を捨ててでも探してたよ。」


「そんな大袈裟な。」


「大袈裟なんかじゃない。

 キャロルは私の為に魔力も地位も全て捨てて守ってくれたんだ。

 私だってキャロルに何かあればそうするとは思わなかった?」


 ルシウスに咎める様に言われキャロルは視線を彷徨わせる。


 確かにそうだ。


 その通りだ。

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