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「次に明日私の立場がどうなったとしても何も拘束する事無く必ずここに連れて来ていただきたいのです。

 魔封じを付けたり首を跳ねる前に必ず。」


 国王はふっと口元を和らげた。


「その言い方ではそなたは明日罪人になると言っておるようだな。

 その予告を黙って聞き流した上に最期にルシウスに会わせろと?」


「はい、陛下。

 その通りにございます。」


 くすくすと国王は笑う。


 こんな願いなど聞いた事がない。


「最後にもう1つあるのですがそれは明日またさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「………ああ構わない。

 それにしてもワインスト嬢…いやもうキャロル嬢か。

 そなたは本当に変わった令嬢であるな。

 息子が気に入るわけだ。」


「珍獣や魔獣がお好きだと聞いております。」


 ああと眠るルシウスの髪を撫でながら国王は頷く。


「昔から変わった物を拾って来ては気に入って手放さない癖があった。

 1度絶滅危惧種の狼の亜種とやらを拾って来た時は大変だった。

 廊下を狼が闊歩しとるんだぞ?

 何度卒倒しそうになったか。」


「…それは恐ろしいですね。」


「であろう?

 何度戻して来いと言っても譲らん。

 普段は聞き分けが良いのに頑として譲らんのだよ。

 仕舞いには狼までこいつに懐いてしまってお手上げ状態だったわ。

 …失礼かもしれんがキャロル嬢もそうなのであろう?」


「…人間の女性と狼の亜種を一緒にするって失礼だと思われませんか?」


 キャロルがじとりと睨め付けるとすまんと国王は笑う。


 笑うとどこかルシウスに似ていた。


 やっぱり親子なんだと頭の片隅で思う。


「狼と一緒にしているわけではない。

 キャロル嬢の時もこいつは譲らんかったんだよ。

 無理だと言ったがそなたも息子を受け入れてくれた様で安心したぞ。

 …こいつが目を覚ましたらこれからも共にいてやって欲しい。」


 キャロルは国王から目を逸らす。


 頷く事が出来ない。


 そんなキャロルに気が付き苦笑いを浮かべた。


「…黙って頷いておけば良いものを。

 息子によく似ておる。

 今日はもう夜遅い。

 爵位については処理しておくからもう寝なさい。

 …酷い汗だ。」


 国王に促されキャロルはペコりと頭を下げると寝室を後にする。


 熱がぶり返している。


 だが国王に頼んだ事で塔に戻る手間はなくなった。


 もう1度医務室に戻ろう。




 熱に浮かされたキャロルでは国王が何故衣装部屋から出てきた事を問い詰めなかったのかさえ頭が回らなかった。

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