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 アルブスは優しくキャロルの手を握る。


 キャロルの視線がゆっくりとアルブスに向いた。


 この半年なかった光景にレオンは目を見開く。


「お久しぶりにございますお嬢様。」


「…アルブスさん?」


「えぇ。

 来るのが遅くなってしまいました。

 お許し下さいませ。」


 アルブスは全てを包むように笑う。


 髪も薄くなり歯も抜け11年の月日を感じさせられた。


「…なんで…ここに…?」


「言ったでしょう?

 儂はお嬢様の味方ですと。

 11年前にしかと約束したはずにございます。」


 アルブスはそう答えると鞄からくたびれた本を取り出した。


 皺だらけの指で項を捲る。


「儂はずっと日記を書いておりましてな。

 あの日の事も勿論全て書いております。

 ルシウス殿下が教会で倒れていらっしゃったと聞きまして今こそお嬢様にお会いせねばと思ったのでございますよ。

 儂の日記が必要になるんじゃないかと思いましてな。

 …ほら、ありました。

 ここにございます。」


 アルブスの開いたページを覗き込んだレオンの顔がみるみる驚愕に変わっていく。


「おっ俺、ルシウス殿下の側近のレオンです。

 ちょっちょっと貸して貰えますか?」


「ええ、どうぞどうぞ。」


 レオンが奪う様に日記に目を走らせていく。


 アルブスは気にせずキャロルに微笑みかけた。


「お嬢様、あの日捜し物は見つかりましたかな?」


 キャロルはゆっくりと頷いた。


 見つかった事に間違いはない。


「良かった。

 では何故お嬢様はこちらにこもっていらっしゃるのですか?

 成すべき事があるのではございませんか?」


 アルブスの諭す様な言葉にキャロルは唇を噛み締める。


 自分でも分かっているのだ。


「…何をすべきか分からないのです。」


 何から手を付けたらいいのか。


 何を考えたら良いのか。


 自分に何が出来るのか。


 自分が生きていて良いのかさえ分からない。


 アルブスは陽だまりの様な笑顔でうんうんと首を振る。


「そうでございましたか。

 …そういう時にはまず1番簡単な事から手を付けたら良いのです。

 まずお嬢様がすべき事は話す事です。

 お嬢様が1人で成せないならば誰かに助けて貰うしかないのですから。」


「…でも…それで殿下は…。」


 自分に関わらなければルシウスはこんな事にはならなかった。


 だからレオンの手も取るわけにいかなかったのだ。


 レオンまであんな事になるのが怖くて堪らない。

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