262

「お嬢様。

 それは聞いた者が判断すべき事にございます。

 側近のレオン様は知りたいとお思いなのでございましょう?

 知ってどうするかは託せば良いのですよ。」


 キャロルはふるふると首を横に振る。


 レオンは何があってもルシウスの味方だ。


 だからこそ言えない。


 彼はきっと命を落としてでもルシウスを助ける為なら動いてしまう。


「俺は知りたい!」


 頑なに口を塞ぐキャロルにレオンが吼えた。


「友達に何かあったなら俺は助けたい!

 力になれるかは分かんねえけど!

 勝手に巻き込まないって決めるな!

 俺の意志を聞けよ!!」


「レオン…。」


 キャロルの声にレオンが泣きながらニカッと笑う。


「半年ぶりに俺の事見てくれたな。」


 その声に交じる感情が余りに暖かくて何と答えたら良いか分からなくなる。


 キャロルの背中をアルブスが優しく撫でる。


「話して下さいませお嬢様。

 そして共に考えましょうぞ。」


 アルブスの横でアンジェリカがふんと鼻を鳴らす。


 レオンは涙を拭いながら座ってキャロルの言葉を待っていた。


 味方だとでも言うのだろうか。


 王太子から魔力を奪い植物状態にした自分を仲間だと認めるのか。


 頭の中に生意気な巫女の言葉が流れる。


 ーあんたはあんたの事を信じるあたしを信じなさい。


 無茶苦茶な理論だと思ったが正論なのかもしれない。


 今の自分には自分を信じてくれる人達がいる。


 ならば自分はその人達を信じるしかない。


 キャロルはゆっくりと引き出しの鍵を開け羊皮紙の束を取り出した。


 信じるなんて馬鹿げてると思う反面、信じたいと思ってしまう。


「……上手く話せる自信がないのでこれを見て下さい。

 殿下が集めた真相の欠片です。」


 3人が羊皮紙に食い入る様に視線を落とす。


 キャロルはぽつぽつと話し始めた。


 ルシウスと共に禁書コーナーに行った事。


 王妃を探った事。


 巫女を脅した事。


 過去に行った事。


 そしてそこで見た物。


 アルブスは頷きながらキャロルの背中を摩り続ける。


 その皺だらけの手は暖かくて背中を押してくれている様であった。


 アンジェリカ嬢は口元を抑え顔を青ざめる。


 レオンは羊皮紙を握り締めた手をブルブルと震わせていた。


 話し終わると部屋が静寂に包まれた。


 誰もが色々な感情を処理するのに必死だったのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る