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 遠くで名を呼ぶ声がする。


 だが目を開ける事さえ出来ない位体が重い。


 まるで体が鉛になった様だ。


 だがそれを食い止める様に体を揺さぶられゆっくり目を開ける。


「起きなさいよ!!

 ねえ何があったの!?

 しっかりしなさい!!!

 聞こえてるんでしょ!?」


 鈍色の瞳が涙を浮かべながらキャロルの顔を覗き込んでいた。


「…巫女様?」


 自分で呟きながら帰って来たのだと分かる。


 数秒霞がかった様な頭を働かせ周りを見る。


 床に横たわる白金色の髪が見えた。


「殿下!!!!」


 慌てて這いつくばりながらルシウスに駆け寄る。


 冷たい体。


 血の気のない顔。


 先程のまでの悪夢が現実として襲い掛かってきた。


「巫女様!

 誰か呼んで下さい!!

 殿下が!!

 殿下がっ!」


「落ち着きなさい!!!」


 反乱狂になりながら叫ぶキャロルの肩を巫女が掴む。


 掴まれた肩がギリギリと傷んだ。


「…私…殿下を…死なせて…」


「死んでないわ。

 辛うじて脈はあるし呼吸もしてる。

 ギリギリだけどね。」


 巫女の言葉にようやくまともに息が吸える気がした。


 自分は呼吸の仕方さえ分からなくなっていたらしい。


「じゃあ早く医務官を!」


「落ち着きなさいって言ってるの!!

 あんたが行く前に自分で言ったんでしょう!

 例え何があっても陣を消してから人を呼べって!

 あんたは何故そう言ったの!

 時渡りがバレて捕まったら全てが無駄になるからじゃないの!?

 今医務官を呼んだらあんたは禁術を使用した上に王太子を殺そうとした罪人になるのよ!

 あんたと殿下が命懸けでした事も全て無駄になるの!!」


 巫女の言葉にキャロルの肩から力が抜ける。


 その通りなのだ。


 今捕まれば時を渡ってまで掴んだ真実も無駄になる。


 王妃を捕らえる事も母親の無実を証明する事も叶わない。


 だがもうそれもどうだって良い。


 こんな事になる位なら真実など見なくて良かったと思えてならない。


 キャロルの表情で分かったのか巫女がキャロルの肩を揺さぶる。


「勝手に諦めた顔してんじゃないわよ!

 あんただけじゃないんでしょ!

 殿下が命懸けてまで成さなきゃいけない事だったんでしょ!

 しっかりしなさいよ!!」


「……そうですね。」


 キャロルは自嘲気味に笑う。


 もう全てに頭が追いつかない。


 全て投げ出して消えてしまいたい。


 キャロルの顔を見て諦めたのか巫女がふっと溜め息をついた。

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