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 暫く3人は庭園の母娘の姿を眺めていたが薄暗くなり始めると屋敷に入って行ってしまった。


「というか魔術師の姿見えませんね。」


「そうだね。

 私達の存在に勘づかれたんじゃないといいんだけど。」


 屋敷に入るまでは母親に魔術が施された気配はなかった。


 後は気付かれて逃げられたか、夕食から寝るまでの屋敷内で魔術を受けたとしか考えられない。


「まっ気付かれたって事はなさそうだし大丈夫だとは思うけどね。」


「なんでそう思うんですか?」


「気が付いて禁術を使用する対象を変えたなら1番にキャロルに変化があるはずでしょう?

 でも何か変わった様子はないから今の所未来が変わる様な事はしてないんだろうね。」


 ルシウスはよいしょと言いながら立ち上がる。


「所でキャロルが禁術をかけられた場所って屋敷のどこなんだい?」


「寝ていたはずなので自分の部屋だと思います。」


「じゃあ屋敷内をウロウロしたら見つかるだろうしもう部屋で隠れておこうか。

 さて、どうやって入ろうかな…。」


 ルシウスが呟くとぼんやりとしていたアルブスがハッとした様に顔を上げ笑顔を作る。


「お嬢様のお部屋でございますね?

 ご案内致しますよ。」


「大丈夫なんですか?」


「ええ。

 ここも貴族のお屋敷でございますからな。

 隠し通路がございますからそちらから参りましょう。」


「ありが」


「ただお1つだけ聞かせて下さいませ。

 ……お嬢様は今夜禁術をかけられるのですか?」


 アルブスの顔から笑顔が消えている。


 血の気が引いておりそれがまた迫力をまして緊迫した空気を伝えてきた。


 ルシウスとキャロルは頷く事しか出来ない。


 2人が頷くとアルブスは床に視線を落とした。


「…未来が変わる事をやけに気にしておられると言う事は、それを食い止める為に未来からいらっしゃったわけではないのでございますね?」


「…はい。

 私達は犯人を探し真実を確かめる為に来ました。

 ですから私は私が禁術をかけられるのを見るだけです。

 …本当にすみません。」


 キャロルが謝ると地面を見つめていたアルブスが深い溜息をついた。


「本音を言えばそれを聞いた今、儂は屋敷の警備を最大限に強化しお嬢様と奥様に見張りをつけるべきなのでしょうなあ。

 …だが儂も歳を取ったらしい。

 色々な物を背負って未来から来たお嬢様と殿下の覚悟に敬意さえ抱いておるのです。

 執事長失格でございましょうね。」

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