237

 キャロルは床に座り込み片手で顔を覆う。


「…本当、意味が分からない。」


「そりゃ当然よ。

 人間皆別の人格、人生があるんだもの。

 理解出来なくて当たり前よ。

 まっ前のあんたなら人間全部1括りにして憎んでたから気づかなかったでしょうけどね。」


「…ごもっともです。」


「…あたしは今のあんたを信用して協力してあげる。

 だからあんたはあんたを信用してるあたしを信じなさい。」


「話の持って行き方強引過ぎるでしょ。」


 本当に面倒くさい。


 信じる事も向き合う事も全てが面倒くさい。


 何よりも今までの方がずっと楽だと分かっているのに信じたいと思う自分が面倒くさい。


「私を信じた結果断頭台でも知りませんからね?」


「別にいいって言ってんでしょ。

 断頭台だろうが幽閉だろうがあんたと行ってやるわよ。」


「……本当に馬鹿ばっかり。」


 キャロルは少しだけ口角を上げた。


 表情筋なんてとっくに死んだと思っていたのに最近の自分はやっぱりおかしい。


 だけどそんな自分の方が世界はより綺麗に見えてしまう。


「…過去を見に行って来ます。」


「それって時渡りってやつ?

 お伽話になってる。」


「ええ。

 もし私達が帰って来た時どうなっていたとしてもまず魔法陣を消して欲しい。

 必ず消してから人を呼んで頂きたいんです。

 どちらかが例え死んでいたりしたとしても。

 もし私達が二人共死んで帰って来なかった場合は知らないふりをしていて下さい。

 多分行方不明で処理されると思いますから。」


「…時渡りってそんなにヤバイわけ?」


「いえ。

 時渡り自体は危険じゃないんです。

 ただ私達は私に禁術がかけられた日に行く。

 その時私は魔力暴走を起こしていた。

 私の母親は実際それで死んでいます。

 2人とも無事に帰れる保証はありません。

 …それでももうこれしか策がないんです。

 そうしなければもう魔術師は捕まえられない。」


 キャロルは膝に顔を押し付ける。


 ルシウスと何度も話し合って決めた事だ。


 最初ルシウスは自分ならバレても幽閉程度で極刑にはならないから1人で行くと言って聞かなかった。


 だけどキャロルは真実が知りたい。


 この目で母親を操り家族を壊した人間を見つけ出したいのだ。


「…分かったわ。」


 巫女の呟きが聞こえてキャロルは顔を上げる。


「あたしはずっと待ってるからあたしが捕まる前に帰って来なさいよね。」


 そう言って巫女は片目を瞑る。


 下手なウィンクだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る