238

 午前0時。


 キャロルとルシウスは教会の裏口から侵入し地下に忍び込んでいた。


 地下室では既に純白の巫女が来て待っている。


「…ちょっとあんた、どうしたのその髪。」


 巫女があんぐりと口を開けている。


 驚くのも無理はない。


 キャロルの背中まであった髪はバッサリと耳の下辺りで切られていた。


 背格好も含めると少年と言われても違和感はない。


「時渡りに必要だったというのもあるんですが今回行くのは私の過去の実家ですからね。

 私の顔は母親似らしいんで一応用心も兼ねてですよ。」


「にしてもバッサリ行ったわね…。

 学園行ったら不審がられるわよ。

 貴族の女性はロングヘアが当たり前なのに。」


「まっ最悪伸びるまで休学でもしてやりますから。

 仕事も溜まってるんで丁度良いです。」


「…あんた変な所でポジティブよね。」


「で、この私の髪と殿下の髪を貴女に持っていて欲しいんです。」


 キャロルは自分の髪をくくった束とルシウスの白金色の髪一房を巫女に手渡す。


「これは私達が帰る時の道標となります。

 貴女が持っていてくれる事で髪に貴女の魔力が宿り私達はそれを頼りにこの時代へ戻る事になる。

 …お願いします。」


「…なによ。

 立ってるだけなんて嘘じゃない。

 責任が重すぎるわ。」


「騙してごめん。」


「…いーわよ。

 あたしが持っててあげるんだからちゃんと帰って来なさいよね。

 サイコパス令嬢も金髪魔王も。」


 キャロルとルシウスは苦笑いで頷く。


「あともう1つだけ。

 貴女に詠唱を唱えて貰わなきゃいけないんです。

 それもお願いしたいなと。」


「分かったわよ!

 あんたその後出しする癖なんとかしなさい!」


 ぷりぷりと巫女が怒るがその声には怒りより心配や不安が混じっていて何だか心が暖かくなる。


 キャロルとルシウスは魔法陣の中に足を踏み入れ真ん中に立った。


「私が今から魔力を流します。

 陣が光ったら巫女様は『アングカラトゥ』と詠唱を唱えて下さい。

 陣は決して踏まないようにお願いします。」


「分かったわ。」


 巫女がこくりと頷いたのを見てキャロルはしゃがみ陣に魔力を流す。


 膨大な魔力が流れていくのが分かる。


 陣が青く光り真っ暗な地下を照らした。


「『アングカラトゥ』。」


 巫女がそう呟くと一瞬視界は白に染まる


 収まった時には地下には誰もいない陣だけが残されていた。


「…絶対帰って来なさいよね。」


 そう呟いた巫女の声は地下の闇に溶けた。

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