パンドラの箱が開く時

213

 ほんの少しだけ冷たさを帯びた風が吹き残暑を感じさせる日差しの熱を和らげる。


 これぞ小春日和と言わんばかりの心地よい空間をキャロルは満喫していた。


 眠気がマックス値を叩き出している。


「聖女様!

 貴女は弟殿下のご婚約者様でしょう!!

 殿下から離れて下さいませ!」


 いい天気だ。


 今日のお昼はテラス席で食べるのも良いかもしれない。


「いやです!

 あたしルシウス君と幸せな家庭を築きたいんです!」


 4限目は古典文学史だったはずだ。


 あのおじいちゃん先生の声は子守唄にぴったりだろう。


「えっとね聖女殿。

 私も弟の事もあるし離れて欲しいんだ。」


「嫌です!

 お友達からってルシウス君言ったじゃないですか!」


「お友達はそんなにべったり抱き着いたり致しませんわ!

 はしたないですわよ!」


 キャロルは欠伸をしながらチラリと前の席へ視線を向けた。


 ルシウスと妹と聖女によるこの光景も早1週間。


 見慣れた物である。


 入学式の次の日からルシウスの隣を勝ち取ったアンジェリカと休み時間毎にルシウスにアタックをかましに来る聖女は毎回熾烈なバトルを繰り広げていた。


 時折何とかしろとルシウスから視線を感じたりもするがキャロルは窓の外を眺めてやり過ごしている。


 モテるのも何かと大変そうだ。


「なーキャロル。

 今日テラス席行かね?

 俺授業終わったら先に行って席取るからキャロル俺の分も買ってきて。」


「いいですよ。

 日替わりで良いんですよね?」


「おー頼むわ。

 先に学生証渡しとくな。」


 レオンから首に掛けている学生証を受け取り自分の首に掛ける。


 この学園では支払いは全て学生証を提示するだけで良く翌月に一括で請求が行くシステムになっている。


 まあ生徒の人数が多過ぎる為一々支払っていては昼休みが終わってしまうだろう。


 中々便利なシステムである。


「…てか。

 1人も新しい友達が出来ませんね。」


「言うなキャロル。

 俺も同じだから。

 つか元はと言えばお前達が原因だからな。」


 そうなのだ。


 初日に盛大にやらかしてしまった事と現在進行形で前の席が毎日やらかしているせいで誰も近寄って来ない。


 お昼ご飯も毎日レオンと授業中は待機室や騎士団にいるリアム、ルシウスといった見慣れた顔とばかり食べている。


 新顔と言えば一応アンジェリカと聖女も加わったが2人共ルシウス目当ての為友達とは言いづらい。


 しかもアンジェリカに至っては妹だ。

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