209

 その夜約束通り塔にやって来たルシウスの手には皮袋が握られていた。


「一応大金貨1000枚程持って来たけど足りるかな?」


「うわぁすごい。

 普通の大きさの城なら2軒位は建てられちゃう額を持ってくるとはさすが殿下。

 色々ヤバいですね。」


「…資金提供させておいて凄い言い草だね。

 それで?

 何に使うんだい?」


「えーっとちょっとお待ちくださいね。」


 キャロルはガサゴソと机の引き出しを漁り鈍色に光る笛を取り出した。


 そしてルシウスの手を引き窓を開ける。


「この笛は通信機の様な魔道具になってます。

 これを窓の外に向かって吹いて下さい。」


 ルシウスはキャロルの説明通り笛を加えピュイーと締まらない音を鳴らす。


「…それで?

 どうなるんだい?」


「一番近くにいる者がやって来るまで暫く待機ですね。

 まあ大体5分位ですが。」


 キャロルはそう言ってソファーに腰掛け麦酒をジョッキに注ぐ。


 ルシウスも自分のベッドに腰掛けながらキャロルの隠していたワインを取り出しグラスに注いでいる。


 手馴れた物だ。


「いい加減何をする予定なのか教えてくれないかな?」


「あれ?

 言いませんでしたっけ?

 情報を買うんですよ。」


 事も無げに答えるキャロルにルシウスが目を見開く。


「…王妃の情報を握ってる人物と知り合いなのかい?」


「まさか。

 今から頼んでシャルドネ王国にある王妃の情報を漁って貰うんです。

 難易度によって料金が代わるのでいくらか分からないんですよ。」


「はあ、なるほどね。

 そんな密偵みたいな知り合いがキャロルにいたんだね。

 びっくりしたよ。」


「あれ?

 多分殿下には前に言ったはずですよ。

 私が孤児を拾ってスパイにしてるって噂聞いてきましたよね。」


 ルシウスはしばらく視線をさ迷わせてああ!と頷いた。


「すっかり忘れてたよ。

 そう言えば出会った頃に聞いたよね。

 あれ?

 でもキャロルが育てたスパイなのにキャロルも料金を取られるのかい?」


「私じゃあまり頻繁に仕事を与えられなかったもので皆各々色んな所に出稼ぎに行くようになってしまいましてね。

 私が育てた密偵がまた孤児を拾って密偵に育ててって知らない間に結構デカい組織になってしまったんですよね。

 私自身最初に送り出す時、金勘定はキッチリしろ、前払いで受け取れって言いきかせたせいで今じゃ私もがっつりお金取られてます。」


「…なんか色々残念な話だね。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る