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「…私も多分図星刺されました。

 すいません。」


「…うん。」


 前の席から回って来た教科書や講義希望用紙等を受け取りながらキャロルもポツリとルシウスに謝る。


「多分私も苛立ってたんだと思う。

 時間が経つばかりで何も手掛かりが掴めていないからね。

 王妃の部屋にも忍び込んだりしたんだけど何も見つからなかった。」


 ルシウスもカバンに受け取った教科書類を入れながら話す。


 全く進まない現状に苛立っていたのはお互い様だったようだ。


「王妃様の部屋にもないとすると一体どこを探せば良いんですかねえ…。」


「…残る可能性は王妃の母国であるシャルドネ王国の王宮だけどさすがに忍び込むのは骨が折れるし失敗したら処刑か開戦物だからね。

 どうした物か…。」


 ルシウスが机に頬杖を付き深い息を吐いた。


 キャロルも背もたれ代わりのルシウスの背中に凭れて天井を見上げる。



「…ねえ殿下。

 1つお願いがあるんですけど。」


「ん?

 なんだい?」


「お金出してくれません?」


「…は?」


 突然どうしたとルシウスが首を捻りもたれかかって天井を眺めているキャロルを見る。


「前触れなく王族に集ろうとする令嬢は私も初めてだよ。

 いくらいるの?」


「さあ?

 そこは交渉してみないと分からないんですよね。

 殿下なら少しは安くして貰えるかもしれないですが。

 初回割引とか始めたらしいんで。」


「…いついるんだい?」


「殿下さえ可能なら今夜でも。

 前払い制のニコニコ現金払いしか認めてくれないものでして。

 私のお小遣いの日まだ先なんで足りないんですよね。」


「…キャロルってお小遣い制だったの?」


「私が魔術師になったばかりの頃何回か給料を初日に使い切ってからは兄様が管理してるんですよ。

 貯金額は物凄い事になってるんで私が成人したら貰う算段になってます。」


「…クリス殿って毎回思うけど本当に出来た人だよね。」


「自慢の兄様ですからね。」


 ホームルームが終わり入学式が行われる講堂に向かう為皆ぞろぞろと廊下に出て行く。


「まあ分かったよ。

 今夜適当に塔に持って行くからまた教えて。」


「ありがとうございます。」


 ルシウスは挨拶がある為か足早に先に講堂へ行ってしまう。


「おいキャロル。

 ちゃんと殿下と仲直りしたのか?」


「大丈夫ですよ。

 仲直りついでにお金も集りましたし。」


「…まじでキャロル何やってんの?」

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