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 靴の底をコツコツ鳴らしながら螺旋階段を下りる。


 人が1人通れる位の狭い石段。


 誰かと出会ってもすれ違う事は出来そうにない。


 王族しか知らない通路の為誰かとすれ違う事はなさそうだが。


「…もし万が一入り込まれてもこの狭さなら1対1か囲まれたとしても2対1で済む。

 だからわざと狭く作られているらしいよ。」


「はーなるほど。」


 さすが王家にとって最期の砦だ。


 かなり考えられているらしい。


 石段を降り切ると長細く続く廊下に出た。


 至る所に無数の曲がり道がありかなり複雑そうだ。


 だがルシウスはその中を迷いなく進んでいく。


「ここって地図ないんですよね?

 迷子になったりしないんですか?」


「もちろんなるよ。

 だから王太子は幼い時から何度も国王とここへ来て道を頭に叩き込むんだ。」


「まあじゃないといざと言う時ヤバいですもんね。」


「はは、そうだね。

 …ほらここを曲がるよ。

 また階段になっているから気を付けて。」


「あっはい。」


 曲がりくねった階段を上がり切りルシウスが石壁に手を翳すと扉が現れた。


「…王族って便利ですねえ。」


「王太子を便利道具扱いするのはキャロル位の物だよ。」


 ルシウスが苦笑いしながら扉を押し開ける。


 先に入ったルシウスに続いて中に入ると視界一面の本棚が目に飛び込んでくる。


 手近にあった本を見ると数年前に悪用され過ぎて禁書となった『毒草・毒物完全収録辞典』があった。


 読みたい。


 今すぐ読みたい。


 珍しくキャロルのテンションが急上昇している。


 思わず本を手に取りほふ…っと溜息を付いた。


 状態も素晴らしい。


 キャロルも欲しかったが手に入れる前に禁書になってしまったのだ。


 予約していたのだから禁書になろうが渡せと本屋で暴れたのは幼いキャロルの可愛らしい我儘だ。


 まさかこんな所で出会えるとは思わなんだ。


 キャロルはしゃがみ込み本を開く。


「こらこら。

 今日はそれを見に来たんじゃないだろう?」


「…はっ!

 私とした事がついうっかり。」


 ルシウスに声をかけられ慌てて本を元に戻す。


 危うく罠に引っ掛かる所であった。


「また連れて来てあげるから今は我慢してね。

 私は奥から探すからキャロルはこちらからかけられた禁術について書かれてる書物を探して。」


「はい、分かりました。」

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