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「…ほんとお人好しだよねキャロルは。」


 いつの間にか真後ろにルシウスが立っていた。


 一体いつからいたのだろうか。


 そもそも王太子がホールにいなくて良いのだろうか。


「…いつからそこに?」


「ん?

 聖女があたし頑張ってるよって言った辺りかな。」


 ほぼ最初からである。


「…良い趣味してますね。」


「彼女私に会いたがってるらしいから出るに出られなくてね。

 弟にまた怒られるのも面倒だろう?」


「まあそれは分かりますが。」


 ルシウスはまだ消えていない幻覚の桜の下に行き花びらを拾う。


「桜だっけ?

 綺麗だね。」


「そうですね。

 彩花嬢の故郷の花らしいです。」


「…枯れて散るのではなく満開のまま散る。

 まるで花火みたいだったよね。

 一瞬の美しさの為に咲く花なんて少し寂しい気もするよ。」


 キャロルは何と答えたら良いのか分からず花火を打ち上げる事に集中する。


 ルシウスは一体何が言いたいのだろう。


「…呪われているから筆頭魔術師になれないってどういう意味なんだい?」


 ルシウスの言葉に喉が詰まる。


 そりゃあ最初から聞いていたのならその部分だって聞こえていただろう。


 キャロルは麦酒の瓶を傾けた。


 年明け早々なんて気分だ。


 ルシウスはキャロルをじっと見詰めている。


 答えるまで逃がしてはくれないだろう。


「…そのままですよ。

 私は実母の呪いで筆頭魔術師には絶対なれないんです。

 ただ一応実力はあるので毎年候補にはなってますが決して筆頭魔術師になる事はありえないんです。」


「…それはどうして?」


 キャロルとルシウスの間に静寂が広がる。


 先に諦めたのはキャロルであった。


 ルシウスの知られたくない部分をキャロルは恐らく知ってしまったのだ。


 キャロルが黙っているのはフェアではあるまい。


「…呪いの種類がダメだったんですよ。」


「呪いの種類?」


「…まあちょっと長くなりますが聞いて貰えますか?」


 キャロルはルシウスに新しく出した麦酒の入った瓶を渡す。


 さあどう話したものか。


 ルシウスはキャロルの横で静かに瓶の蓋を開けた。

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