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「…あたし夢を見てる気分だったんだ。

 だからいつか醒めると思ってた。

 キャロルさん、あたし帰りたい…。

 お父さんとお母さんにあたし何も言ってないの……。」


 彩花嬢の声に本格的に嗚咽が混じりだした。


 キャロルは黙ってハンカチを渡す。


 何と言葉をかけたら良いのか分からない。


「ハリー君達はね、諦めるしかないって。

 今まで帰った人はいないからって。

 ねえ本当なの?

 キャロルさん凄い魔術師なんでしょ?

 何か知らないの?」


「…すいません。

 私も異世界を渡る方法は聞いた事がありません。」


「そっかぁ…。

 そうだよね…ごめんね……。」


 彩花嬢はしゃがみ込み本格的に泣き出してしまった。


 細い肩が震えている。


「ハリー君がね、あたしは聖女の光魔術以外別に無理して頑張らなくても良いよって言うの。

 そのままで良いんだよって。

 でもそれを言われる度にね、光魔術以外私は何も必要とされてないんだって感じてね苦しいんだ…。」


 キャロルは彩花嬢の横にしゃがむ。


「…私は彩花様が学び覚えた事に不必要な物などないと思いますよ。

 こんな事言うとまた悪影響って言われてしまうかもしれませんが。

 ……そうですね。

 悪影響ついでに最後に1つ授業をしましょうか。」


「…授業?」


 首を傾げる彩花嬢の手をキャロルは握る。


「彩花様のいらっしゃった世界…日本でしたっけ?

 1番好きな場所はどんな所でした?」


「えっと日本はね四季があって春には近所の河原に満開の桜が沢山咲くの。

 花びらが雪みたいに散って地面がピンクの絨毯みたいになるんだよ。

 そこでね毎年お母さんとお父さんとお弁当広げて一緒にお花見したんだ。」


 そこまで言うと彩花嬢はまた大粒の涙を流し始めた。


 キャロルは頷きながら聞く。


「その光景をしっかり思い浮かべられますか?」


「…うん。」


「では私が魔力を調節しますので細部まで思い浮かべたら『ハルーシネイション』と唱えて下さい。」


 彩花嬢はしばらく目を閉じる。


 一生懸命思い浮かべているのだろう。


 寒さで赤く染まった唇が小さく動いた。


『ハルーシネイション』

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