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「でっ殿下?」
キャロルは顔を引き攣らせ必死に声を出す。
二の腕を捕まれる等の痛いのも嫌だがこれはこれで恐怖で嫌だ。
蛇に捕食される前の蛙気分である。
「…ねえキャロル。」
ルシウスのくぐもった声が耳元で聞こえる。
こんなルシウスの声は聞いた事がない。
「…私は望まれてないんだ。」
「…殿下?」
「一緒にいて。
…そして私が呑まれたその時は君が私を殺して。」
「…。」
何が言いたいのかも分からない上に一体何て物騒な話をするんだ、頭イカれたのか、等と言いたかったが声にならなかった。
ルシウスの声が震えていたからか。
その声があまりにも悲痛だったからか。
キャロルは頷く事も首を横に振る事も出来ない。
殺してくれと自分と同じ歳の少年に懇願されて頷けるわけがない。
「…殿下。
何かあったんですか?」
あまりのルシウスらしくなさに思わずそう問いかける。
思えば怒り方も普段より激しかった。
そして何となく余裕なさげに瞳が揺れていた気もする。
キャロルの問いかけにルシウスは何も答えない。
「…沈黙は肯定と捉えて良いんですよね?」
以前のルシウスの言葉をそのまま使うとキャロルの肩でルシウスが笑ったのが分かる。
当たりだったのだろう。
きっと自分の存在が揺らぐ何かがあったのだ。
何かは聞いてもきっとこいつは答えないだろうが。
「大丈夫ですよ。
きっと貴方はまだ大丈夫です。」
背中をぽんぽんと叩いてやる。
ルシウスが肩の上で大きく息を吸い体を起こす。
解放されて思わずほっとしてしまう。
乗り切った。
私はこのピンチを乗り切ったのだ。
「…ほんと考えてる事分かりやすいよね。」
ルシウスに苦笑いで言われキャロルは視線を逸らす。
「…何の事でしょう?」
「まっいいよ。
…ありがとうキャロル。」
目尻が下がりクシャッと笑う。
花が一斉に咲いたかのような溢れんばかりの笑顔。
キャロルは全身に鳥肌が立つ。
普段の似非王子スマイルには慣れているがこれは慣れない。
何か怖い。
得体の知れない恐怖を感じる。
思わずじりっと後ずさってしまった。
「…キャロルってほんと失礼だよね。」
「もっ申し訳ございません。」
「まあいいよ。
着替えておいで。
バーベキューするんでしょ?」
誰のせいで着替えが終わってないと思ってやがるんだと、恨めしい視線を投げるがルシウスは気にする事なくレオンの所へ行ってしまった。
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