135

 ルシウスの視線の先を辿る。


 薄暗い壁に目を凝らすと暗闇に目が慣れぼんやりと見えてくる。


 壁じゃない。


 天井まで届いているであろうゴーレムだ。


 巨大な石で出来たゴーレムが壁に寄り掛かる様に立っていたのだ。


「…これ、生きてんのか?」


 レオンの生唾を飲み込む音が暗闇に響く。


「いや、胸の部分を見てごらん。

 魔石が砕かれてるのが分かるだろう?」


 確かに胸部分が抉られ中から覗いた魔石が割れているのが分かる。


「あれだけ砕かれていれば動く事は出来ないよ。

 でもキャロルの魔道具に反応したって事は生命の維持はまだギリギリしているんだろうね。

 もしかしたら意識はあるのかもしれない。」


 ゴーレムの足元には枯れたツタが絡み付き体の1部は石が砕けてしまっている。


 長い長い間ここに1人で立っていたのだろうか。


 誰も来る事のないこの場所で動く事も出来ず死ぬ事も出来ない中。


「…きっとこのゴーレムは守り人だったんじゃないかな。

 ずっとこの遺跡の門番をしていたんだよ。」


「…完全に魔石を壊す方がゴーレムにとって幸せなのではないでしょうか?」


「さあね。

 ゴーレムが守っているはずの龍に聞いたらいいよ。

 何が幸せかなんて他人が決めるべきじゃない。

 …さあ先を急ごう。」


 ルシウスに急かされゴーレムをチラリと見ながら奥へと進む。


 死んだ土地としか思えない遺跡。


 その中にいた屍の様なゴーレム。


 もしかしたらこの遺跡にいるという龍もそうなっているのではないか。


 死んでいるとも生きているとも言えない身体になっているのではないか。


 このバヌツスの街の様に。


 そうだとしたら自分はどうしたら良いのだろう。


 無視をするのか。


 助けようと足掻くのか。


 トドメを刺し殺すのか。


 どれも正解でどれも間違っている気がしてならない。


 きっとそれはバヌツスに対するルシウスの感情そのものなのだろう。


 ルシウスは龍に任せたら良いと言ったのと同じ様に街人の意見に任せているのかもしれない。


 破滅すると分かっていてもそれが街人にとっての幸せなのだから。


 キャロルがそんな事を考えていると足首に何か引っかかりを覚えた。


「…ん?」


 細く頑丈な糸が足首にかかっている。


 まさか罠…?



 ドンッ



 ブチッ



「あっ」


「おいキャロル急に止まんなよな。」



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