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「……しっ。

 静かに。」


 ルシウスの鋭い声にレオンが口を閉じる。


 先程まで何の音もしていなかった通路に微かに風の音の様な何かが聞こえた。


「何の音だ…?」


「すいません。

 私が足元の糸を切ってしまったからだと。」


「…何かの装置なんだろうね。

 風の音…?

 いやそれにしては…。」


「…俺の嫌な予感が当たった気がしますよ殿下。」


 キャロルの後ろでリアムが背負っていた大剣を抜く金属音が鳴る。


「…キャロル嬢。

 俺の剣に火魔術を纏わせて貰えるか?

 1番相性が悪い奴らだ。」


「レオンは馬と毛玉を連れて下がっていてくれるかい?」


 2人の言葉にキャロルは慌てて大剣に手を当て詠唱を唱えレオンは毛玉を抱え馬と共に後ろへ下がる。


 微かに臭う鼻を刺すような腐敗臭。


 ルシウスも自分の刀身に火魔術を纏わせていた。


「…ほら出てきた。

 アンデッドの兵士達だ。」


 レオンのうげぇという情けない声が聞こえる。


 元は人間に近い姿をした魔物の兵士だったのであろう鎧を身にまとった軍団がこちらに近付いて来ていた。


 肉や皮膚がドロドロに腐り引き摺る様に垂れ下がり腐敗臭を撒き散らして歩いている様は軽く悪夢だ。


「…奴らには火魔術以外は通用しない。

 吐く息は猛毒だから2人共口元を覆っておくんだ。

 キャロルは私達の援護をお願いね。

 レオンは悪いけど相性が悪過ぎるから今回は待機してて。」


「分かりました。」


「わっ分かった。」


 確かにルシウスの言う通り弓使いのレオンでは矢の1本1本に一々火魔術を纏わせるのは効率が悪い。


 相性としては最悪と言えるだろう。


「さっ行こうかリアム。」


「行きましょう殿下。」


 前衛の2人組はそれだけ言葉を交わすと前に突進して行った。


 こんな時なのにふと思う。


 よく考えたらリアムが戦う姿やルシウスとリアムが共闘する姿は初めて見る気がする。


 援護をと言われたがどう戦うのか見なくては援護の仕様がない。


 キャロルが自分の役割に悩んでいるとレオンの感嘆に似た悲鳴が聞こえた。


「かっこいい…すげぇ…。」



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