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「…でも不思議ですね。

 枯れ果ててまるで砂漠地帯の様になっているのに王都よりむしろ涼しいなんて。」


 真夏なのに何故か爽やかな涼しい風が吹いている。


 砂漠には初めて来たが普通もっと陽射しは強く熱風が吹く物ではないのだろうか。


「そうなんだよ。

 ここは実は豪雪地帯でね。

 雨も多いし雪も積もる。

 昔は避暑地として王都の貴族に人気だったらしいんだ。

 なのに何故か川も植物も枯れてしまうんだよ。

 一体何が原因なのかも分かっていなくてね。」


 ルシウスも困った様に苦笑を浮かべる。


 キャロルは何と答えれば良いか分からず幌馬車の隅に寝ている毛玉に目をやる。


 ルシウスに餌を牧草ではなくペレットを持っていこうと言われた理由が分かった。


 なくなった時手に入らないし嵩張るからだ。


 それほどまでに辺り一面雑草1本生えていないのだ。


 餌が全くないからか魔物の気配もない。


 死んだ土地とはこういう場所を言うのだろうか。


 街を過ぎて2時間程進むと静流の遺跡に入る為の監視塔が見えて来た。


 普段なら冒険者カードを見せ入場料を払うだけの場所だ。


 だが塔の職員は幌馬車の前に立ち塞がり馬車を進ませようとしない。


 リアムが溜息をついて懐の財布から銀貨を取り出し職員の手に乗せる。


 チップを寄越せという話だったようだ。


 何だか船といい街といい気分の滅入る事ばかりだ。


 前回は最初から楽しかったのに。


 キャロルは幌馬車から降り馬に乗せきれない荷物を背負いながら溜息を着く。


 レオンも色々考えているのか口数が少ない。


 毛玉は自分のペレットの入った袋を背負いながら得意顔をしているが。


 キャロルとレオンの様子に気が付いたリアムが2人の髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。


「二人ともそんな死にそうな顔するんじゃない。

 龍に会うんだろう?

 ほら元気出せ。」


 リアムが鞄から飴の入った瓶を取り出し中身を1つずつ2人の口に放り込む。


 優しい蜂蜜の味がした。


 確実に子供扱いされているが蜂蜜の甘さが少しだけ気分を軽くしてくれる気がする。


「…うん。

 そうだよな。

 今ここでくよくよしててもどうにもなんねえしな!

 行くぞキャロル!」


 レオンがパンっと頬を叩いて気合いを入れる。


 そうだ。


 今いくら悩んだとしてもこの場所ではどうにも出来ないのだ。


 ならば今やるべき事をした方が良い。


 キャロルもコクリと頷いた。


「さっみんな龍をみつけようか。」

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