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 キャロルをこの塔に住まわせたのも小兄だ。


 夢だった騎士を諦めて魔術師団に所属しキャロルを守ってくれたのも小兄なのだ。


 自分はいつもこの兄に泥を被せる事しか出来ない。


「そんな顔すんなキャロル。」


 困ったように笑いながらクリスがキャロルを抱き上げる。


「大丈夫大丈夫。

 俺の事をちゃんと知ってる奴が信じてくれたら俺はそれで良い。

 何よりお兄ちゃんとしてお前を守ってやれたならそれが俺にとっての勲章だ。」


「すいません小兄様…。」


「あーもう気にすんなって。」


 クリスは困ったように笑う。


 ーやはりこの兄は自分に甘すぎるのだ。


 時々自分が許せなくなる程に。




 クリスにエスコートされ会場入りするとやはり鋭い視線が刺さった。


 フワリー嬢やアグネス嬢にクリスに言われた通りに説明すると多少空気は和らいだが。


 クリスへの罪悪感で凹みまくりである。


 アグネス嬢は納得いかないのかジロジロとキャロルの装いを見ている。


「…ねえキャロル様。」


「はい、なんでしょう?」


「本当にそれはお兄様が準備なさった物なんですの?」


 何か確信があるのかさっさと吐けと言わんばかりの目で声を落としながら聞いてくる。


 フワリー嬢は首を傾げているが。


「…何がいいたいのですか?」


 キャロルが視線を彷徨わせるとアグネス嬢がニッコリ笑う。


 扇子の先でキャロルのネックレスを指した。


「そちらのブルーダイヤモンド。

 申し訳ないのですがキャロル様のお兄様ではご準備出来ない品と見受けられますの。

 私の記憶が正しければそちらは『神の泪』と呼ばれる王家所有のブルーダイヤモンドではないかと。

 …ねえキャロル様、素直に吐いてしまいませんこと?」


 笑顔のアグネス嬢とフワリー嬢に詰め寄られる。


 あいつなんちゅー物を使ってやがると思うがもう何と説明すれば良いのか分からない。


 あわあわと後ずさるキャロルの耳に王太子入場のラッパの音が響く。


 助かった。


 キャロルはホッと息を吐いた。


 助かったはずだったのだ。


「あらあら。」


 アグネス嬢の笑い混じりの声が耳に届くまでは。

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