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 その後の事はもう殆ど記憶がない。


 選考会の2時間前に会場に送り付けられ、受け取った開発部の担当職員は乱れ過ぎてほぼ解読不能状態の資料のせいで魔道具の説明は困難を極めたらしい。


 しかも魔道具の性能のせいで教会側からは怒号があがり魔術師団からは詳しい説明を求められ。


 しかし資料は前述の通り最早読める物ではなく会場は大混乱に陥った様だ。


 一応協議の結果何とか認められ魔道具の評価点数は史上最高点を叩き出したは良い物の、神への冒涜を何とも思わない人物という評価も加わり人格評価も最低点を更新したらしい。


 まあ前回の最低点も自分なのだが。


「……以上の理由により慎重に検討させて頂きましたが今年度の貴殿の筆頭魔術師への選考は誠に残念ながら見送らせて頂く事になりました。

 末筆ながら、貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申しあげます。」


 4日間眠り続けたキャロルは事務机に置かれていた報告書を読み上げる。


「くそー!

 魔道具自体は史上最高点なのに何でだよ!」


 レオンがクッションの上でじたばた暴れて悔しがっている。


 納得いかないのであろう。


「だから前に言ったじゃないですか。

 私の人格評価がマイナス方向に突き抜けてるから二次選考に行けないんですよ。

 あっ『モフウサギ』これ棄てて来て。」


 床でホコリを食べていた機械仕掛けのウサギがやって来てキャロルの渡した羊皮紙を咥え、それをゴミ箱に持っていく。


 ゴミ箱の中に羊皮紙と溜め込んだホコリを吐き出した。


 毛玉も面白がって着いて行き一緒にゴミ箱に頭を突っ込んでいる。


 今回作った『モフウサギ』はゴミを餌として認識し人の言葉を理解する魔道具である。


 エネルギー源である魔石を置いておけば足りなくなると自分で体内に摂取するキャロル渾身の作品だ。


 キャロルが視線を戻すと報告書の最後に夏季休暇後の新年度から王宮内の複数の施設で『モフウサギ』の試運転を行う事が決まったと書かれていた。


 試運転を行う予定の施設の中にはあの第4騎士団寮の文字もある。


「…まあ、目的は達成したんで満足ですよ。」


「はあ?

 目的?」


 レオンは不思議そうな顔をしているが横から報告書を覗き込んだリアムの目が優しく垂れる。


 納得いかない様子のレオンをあしらいつつキャロルは報告書をゴミ箱に棄てたのだった。

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