105

 レオンにいくら激を飛ばされてもキャロルにさえどこに手を加えれば、魔法陣に何を足せば良いのか最早分からないのだ。


 それでも必死で手と頭を動かす。


 考えろ。


 何が足りない?


 何が間違っている?


「ダメだ!

 今度は対象物を認識しない!」


 理論は間違っていないのに何故上手くいかない?


 そもそもこの魔道具を完成させる事など出来るのか?


「キャロル?!

 おい寝るなよ!?

 後10時間ないんだぞ!!」


 そんな事分かってる。


 でも打つ手が見い出せないのだ。


 考えろ、考えろ、考えろ……。





「落ち着いて、キャロル。」


 ふわりと優しい石鹸の匂いが鼻をくすぐった。


 頭にぽんと手を置かれる。


「大丈夫だから落ち着いてキャロル。

 まずは大きく息を吸って。

 …そう、吐いて。」


 ルシウスの声に合わせて深呼吸をする。


 モヤに包まれていたような視界が少しだけ澄んだ気がした。


「落ち着いてもう1度魔法陣を見てごらん。

 私でもこの魔法陣では上手くいかないって分かるよ。」


 そう言われて改めて魔法陣に目を落とす。


 言われてみれば古代文字のミスやそもそも詠唱の言葉が間違っている。


 追い詰められて初歩的なミスが随所に散りばめられている。


 そりゃあ上手くいくわけがない。


 頭が働いていないにも程がある。


「大丈夫だよ。

 ちゃんと直せばきっと上手くいくから。

 ね?」


 頷いて新しい羊皮紙にもう一度魔法陣を書く。


 絶対に無理だと思っていたのに今は書き上げたら上手くいく予感がした。


「…これお願いします。」


 深く息を吐いて書き上げた魔法陣をブンブン丸7号に乗せる。


 大丈夫だ。


 きっとこれは上手くいく。


 キャロルは祈るように両手を組んで握り締める。


 神に祈る気はない。


 信じるのは自分の理論だ。


 息を止めてレオンの声を待つ。


「ーっ!!!!

 キャロル出来た!

 出来たぞキャロル!!!!」


 レオンの悲鳴に近い声に止めていた息を大きく吐いた。


 出来た。


 出来たのだ。


 キャロルは床に頭を押し付けた。


 安堵で体が動かない。


「おいキャロル!

 寝るなよ!?

 これ提出しなきゃならないんだろ?!」


「……はい。

 あと魔法陣を彫り込んで説明書を書いて資料を纏めてから提出しなきゃ…。」


 分かってはいるが体が持ち上がらないのだ。


 もう限界なぞとっくの昔に突破しているのである。

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