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「まあ気にしないで。

 キャロルも選考会頑張ってね?」


「あっはい。」


 そう言われ急いでまた本に齧り付く。


 ルシウスは笑ってキャロルに紅茶を入れてくれたのだった。




 ーあれから12日。


 散らばる羊皮紙。


 開いたままそこかしこに投げられ積まれた書物。


 布や毛皮の切れ端に砕けて放り投げられている魔石。


 鉄屑に木の板や釘やネジ。


 それら全てが散らかり放題に投げ出されている部屋は最早人が住む場所ではない。


 そもそも歩くスペースが見つからない。


 その中を毛玉が掻い潜って進んでいる。


 毛玉にとっては楽しい迷路でしかない。


「おいキャロル!

 ダメだ!

 対象範囲外でも砕いて食べちまった!」


 物に埋もれて見えないがレオンの声が部屋に響く。


 毛玉がゴミの森を掻き分けて進むと白目を隙間なく充血させ黒々とした隈を貼り付けた顔で羊皮紙にペンを走らせているキャロルがいた。


 キャロルは毛玉を見ると毛玉の餌皿に草を入れてくれる。


 毛玉は今日4回目の食事を摂る。


 まだ午前中なので明らかに食べ過ぎだがそれさえキャロルは気付いていない。


「了解です。

 じゃあ次の奴試して下さい。」


 キャロルが振り返らずに『ブンブン丸7号』に羊皮紙を乗せレオンの所へ運ばせる。


『ブンブン丸7号』は1度設定すると対象物を自動追跡するよう改良した物である。


「りょーかい。

 あっダメだ魔石が砕けた!

 リアム新しいの頂戴!」


「ほらよ。」


 リアムは資材置き場と部屋を行き来し木箱を運んでは空になった木箱にゴミを詰めて塔の下に運んでいた。


 それでも間に合わずあの状態なのだが。


 部屋は正に修羅場であった。


 後1日と12時間を切ったがまだ完成していないのだ。


「ダメだキャロル!

 出会っても反応せずにぶつかった!」


 キャロルがレオンの声を聞き書いていた羊皮紙を放り投げる。


 これではダメだ。


 また書き直しだ。


「分かりました。

 すいません書き直すので待って下さい。」


「大丈夫かキャロル?!」


 キャロルの死んだ声にレオンの心配そうな声が聞こえるが大丈夫かどうかもう自分にも分からない。


 前代未聞の開発なのは間違いないのだ。


 設定した1つの仕事をこなすのではなく、複数の事を判断し恰も『自分の意思で動いている』かの様な魔道具を作る事など有り得ない話なのだ。

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