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 キャロルの頭の上でスヤスヤと寝息が聞こえる。


 嫌な予感が当たってしまった。


 やっぱりこいつキャロルを抱き枕代わりにしおった。


「ちょっレオン、リアム様。

 見てないで助けて下さい。」


「あっそうだよな!」


 レオンが慌ててやって来てガッツリハマっている腕を持ち上げてくれる。


 するすると這い出し事なきを得た。


「しっかしすげえな。

 寝るまで10秒なかったんじゃないか?」


「…お前達のせいで寝られてなかったんだろ。

 お渡りがふりだって事はアグネス嬢達しか知らんがあったと信じ込んでるファンティーヌ嬢側がやる事が過激になってな。

 バレてない退避場所だったこの塔もファンティーヌ嬢の派閥がキャロルの事血眼になって探し回って、殿下の後をずっと着いて来るから塔に来るわけにもいかない。

 皮肉だがレオンと婚姻させるって噂のお陰で漸く寝に来れたんだろうな。」


 離宮は思った以上に荒れていたらしい。


 恐ろしい世界である。


 探し回られているから見つからない様に軟禁状態だったのかと納得した。


「あれ?

 でも私離宮に引きこもってるって事になってるんじゃありませんでしたっけ?」


「とっくに強行突破されて今は安全確保の為に身を隠してるって事にしてあるんだ。」


 強行突破とは穏やかではない。


 だから居場所を知ってると思われるレオンもキャロルと共に軟禁だったのだろう。


 なかなか過激派なご令嬢方だ。


「なんかすみませんでした。」


「それは殿下が起きたら殿下に言ってやってくれ。」


 リアムが行き倒れの様に寝ているルシウスに布団を掛けてやる。


 本当に寝ていなかったのだろう。


 こうして周りで喋っていても全く起きる気配もない。


 キャロルは暫く寝かせてやろうかとまた事務机に向かった。


 レオンとリアムもローテーブルの自分の書類に手を戻している。


 まあ事務机に向かったからと言って白紙の羊皮紙は結局そのままなのだが。


 キャロルは天井を見上げてまた思考の海に沈むのである。


 今日も妙案が出そうな気配は微塵もない。


 ここまで来たら減給は覚悟しておいた方が良いだろうか。


 ただリアムに頑張ると言った以上キャロルのプライドとしては諦めたくないのだが。


 キャロルはまた長い溜息を吐くのだった。


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