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 何を手伝えば、そもそも手伝える事などあるのか?とバケツを運びながら考える。


 筆頭魔術師候補なんて言っても魔術が使えなければただの役立たずだ。


 若干キャロルが落ち込んでいるとまたもやほぼ空になってしまっているバケツを運んで来たキャロルの前にリアムがしゃがむ。


「キャロル嬢。

 どうだった?」


「…へ?」


 気が付けばもう辺りは薄暗い。


 バケツさえろくに運べずお手伝いらしい事など全く出来ていない。


 グジグジとやさぐれている間に1日が終わってしまっただけである。


 キャロルはきゅっと唇を噛み締めた。


「…何も出来ませんでした。」


「…そうだな。

 何故だか分かるか?」


「私が引きこもりで腕力がないからです…。」


 キャロルが俯いてそう答えるとリアムは首を縦に振って肯定した。


「もちろんそれはある。

 だが1番はキャロル嬢がまだ子供で身体も小さくて道具が扱えなかったからだ。」


「…でも他の私位の子達はみんなちゃんと出来てました。」


 自分だけが何も出来なかったのだ。


 それが何より悔しい。


「出来ているからと言って彼等が君が扱えなかった道具を何の苦労もせず使えていると思うか?

 君の身長より大きくて重量もあるあの道具が便利だと思っていると思うか?」


 リアムの言葉に顔を上げる。


「その為の魔道具開発部なんじゃないのか?」


 そう言ってキャロルの頬に付いた泥をリアムは指先で拭った。


「キャロル嬢には確かに腕力も体力もない。

 けどこの寮にいる誰もが適わない力があるだろ?

 キャロル嬢のその力はこの寮にいる人間全員を救える力だ。」


「…全員ですか?」


「この寮は第4寮と言ってな、魔力を全く使えないと判断された学生が住む寮なんだ。

 だから魔力を込めてから使うタイプの魔道具は一切なかっただろ?

 因みに俺もこの寮出身なんだ。」


 チラリとリアムが寮の建物に目をやる。


「新入生も寮の当番を交代でするんだが大体最初の1年は毎回遅刻になるんだ。

 キャロル嬢と同じで道具は上手く扱えないし洗濯も上手くいかない。

 一緒なんだよキャロル嬢。

 だから誰も笑ってなんかなかっただろ?」


 言われて見れば確かに心配そうにはされたが怒られたりはしなかった。


 キャロルは首を縦に振る。


「…はい。」


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