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 ずりっ…ずりっ……ずりずりっ………。


 未来の筆頭魔術師とも言っても過言ではない少女キャロル。


 魔術を使わせれば1級品、魔道具を作らせたら奇跡かと言わせる少女キャロル。


 そんな有名人キャロルは今日、いやつい先程分かった事がある。


 引きこもりキャロルは実は筋力不足らしい。


「…おいキャロル嬢。

 持って来るまでに水ほぼ零し切ってるぞ。」


 キャロルが後ろを振り返ると井戸から自分の足元まで零れた水が足跡の様に続いていた。


「あらま。」


「…やり直し。」


「…はい。」


 キャロルはリアムの苦笑いを一瞥してからまた井戸に戻る。


 そもそもこの木で出来たバケツ自体が水が入ってなくても重いのだ。


 キャロルはまたバケツをずりずり引きずってあるく。



 リアムが連れて来たのは国立騎士学園の学生寮。


 今日は夏休み前と言う事で寮の大掃除の日なのだそうだ。


 寮の前でリアムは言った。


「キャロル嬢には今日1日メイドや寮生を手伝って一緒に大掃除をして欲しい。

 ただ条件は1つ。

 今日は魔術や魔道具は決して使わない事。」


 キャロルは頷いて了承した。


 大丈夫だと思ったのだ。


 だってメイドの中にはキャロルと同じ年位の子だっていたのだから。


 甘過ぎる考えであったと今なら言わざるを得ない。


 沢山のシーツやカーテンを洗っていた洗濯場ではじゃぶじゃぶと楽しくなりながら洗ったものの絞る事が出来なかった。


 絞っても絞りきれなかったのだ。


 キャロルはキャロルの絞ったはずのシーツから助けてくれたメイドさんが絞り直すと水がビシャビシャ落ちて来て唖然とした。


 リアムに横で「腕力…」と呟かれ自分の腕を見る。


 ひょろひょろだ。


 細いと言えば聞こえは良いが、肉も筋肉もないただのもやしっ子である。


 今自分はもしかしたらこの寮の大掃除をしている人間の中で最弱なのではないだろうか。


 今突然魔術なしで殺し合え等言われたら自分は一発で死ぬのではなかろうか。


 キャロルはその事実に少し凹んだ。


「ここはもう終わりますから大丈夫ですよ。」


 と優しくメイドに洗濯場から追い出され、次に向かったのは武器庫。


 刃の研ぎ直しをしようとしたが、これが意外に重たくて持ち上げてフラフラしていると問答無用で追い出されてしまった。


 室内を手伝おうにもモップも箒も全てが重たいのだ。


 キャロルには絶望的な話であった。

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